【ブログ移行計画②】AWSのWordPressに投稿データを移行してみた
こんにちは、Taikiです。
その構成はこんな感じです。ネットワークはInternet経由、InstanceはEC2(tc2.microの無料枠)です。
今回はドメイン取得とDNS登録し、投稿データを移行の上、サイト公開まで行います。
目次はこちらです。
インスタンスとIPアドレスの対応付け
前回選択したAMIはWordPressのプレインストール版ですが、このAMIの提供者は、先日VMWareが買収したBitnamiです。
このBitnamiについて少し解説を。この会社はYコンビネータというスタートアップを中心としたファンドの出資により立ち上がりました。WordpressやRedmineなどのオープンソースをパッケージ化してクラウドベンダーに提供しています。
一方、VMWareはクラウドやオンプレのマルチクラウドインフラ市場に「VMware vSphere」を提供していますが、今後インフラ市場だけでは生きていけません。KubernetesやAnsible、AMI複製などインフラ屋がいなくても開発者、リテラシーあるユーザーが自力でインフラ構築できる時代です。VMWareもアプリケーションプラットフォームに力をいれるために同社を買収したそうです。
では話を戻します。まずインスタンスにIPアドレスを割り当てるためにElastic IPを使います。
ここではAmazonプールを使用します。もしオンプレリソースとAWSを結びたいなら、ユーザー所有を選び、VPN GatewayやNAT Gatewayを使うことになります。
割り当てられたIPアドレスをEC2インスタンスと関連付けします。
ドメイン取得とDNS登録
新規ドメインの取得はRoute53で行います。お名前.コムなど日系サービスと比較するとドメインの相場はRoute53が高いですね。。xyzドメインですが、年間13ドルほどでした。
次に、DNS登録を行います。DNS登録を行うとドメインとIPを関連付けし、このブログをインターネットに公開できます。
タイプ列の「A」がIPアドレスとドメインの関連付けに必要なレコードです。
WordPressから投稿データの移行
最後にWordPressから投稿データをテキストベースで移行し、WordPress側でそのデータをインポートすれば完了です。アイキャッチ画像やレイアウトなどまだカスタマイズ不十分ですが、テスト移行できました。データ移行の手順はこちらを参考にさせていただきました。
はてなぶろぐからワードプレスへ引っ越し。移行手順を1から説明します。 | トレーダーが漫画を描いています
接続方法と認証情報について
今回AWSでWordPressを立てる上で一番苦戦したことが、AWSやWordPressへの接続の仕方や認証まわりです。どのリソースで何をしたいか、によって、接続方法は異なりますが、その認証情報をどう入手するかを調べるのに時間がかかったため、ここで整理しておきます。
AWSマネジメントコンソール
AWSマネジメントコンソールは、WEBでAWSのサービスやリソースを管理するためのGUIサービスです。AWSのサイトをみると、画面右上のこのボタンです。
サインインに必要な情報は、AWSアカウントとパスワードです。パスワードは、AWSアカウントを作成する時に登録します。このコンソールでは、サービスやリソースの確認や変更、請求金額の確認などあらゆることが管理できます。
AWS CLI
AWS CLIは、黒窓(CLI)でインスタンスの操作や確認ができます。AWS CLIを使用するためには、アクセスキーやシークレットアクセスキーが必要となります。
アクセスキーの作成
アクセスキーやシークレットアクセスキーの認証情報を取得するためには、AWSサービスの1つであるIAM(Identity and Access Management)でユーザーを追加します。
ユーザーに必要な権限を与え、その認証情報からアクセスキーを作成します。ダウンロードしたCSVファイルは厳重に保管しておきましょう。
AWS CLIのインストール
次に、AWS CLIを操作PCにインストールします。インストール手順はこちらです。
https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/cli/latest/userguide/install-windows.html
AWS CLIの操作
インストール後、DOSやPowershellなどのネイティブなCLIを起動しこちらのコマンドを打ちます。
aws configure
すると、アクセスキーやシークレットアクセスキーが要求されますので、先で入手した値を入力します。region nameとoutput formatは任意でかまいません。
Default region name:
Default output format:
認証が通れば、コマンド操作でインスタンスを起動や停止が可能となります。インスタンス名やリージョン名は、AWS マネジメントコンソールでご確認ください。
▼インスタンス起動コマンド:
aws ec2 start-instances --instance-ids [インスタンス名] -- [リージョン名]
▼インスタンス状態確認コマンド:
aws ec2 describe-instance-status --instance-ids [インスタンス名] --region [リージョン名]
▼インスタンス停止コマンド:
aws ec2 stop-instances --instance-ids [インスタンス名] --region [リージョン名]
AWSにSSHで接続する
BitnamiのWordPressにサインインするために、SSHで接続し、コマンド操作により、そのユーザー名とパスワードを入手する必要があります。今回は、TeraTermでSSH接続しました。そのためには、先のElastic IPで付与されたグローバルIP、AWSアカウント作成時に生成された秘密鍵(pemファイル)、ユーザー名(ubuntu OSではubuntuとなります)とパスワードが必要です。
SSHで接続後、下記のコマンドでWordPressのユーザー名とパスワードを取得します。
cat ./bitnami_credentials
以上でめでたく、WordPressにも接続ができ、データの移行を終えることができました。
まとめ
簡単ですが、今回の設定を図にまとめてみましたので、ご参考ください。詳細な手順は省いていますが、お知りになりたい方はお気軽にお問い合わせください。
【ブログ移行計画①】AWSでWordPressを作成してみた
こんにちは、Taikiです。
先々ブログ移行を検討しており、勉強もかねて無料枠でAWSのインスタンスを作成しました。
細かな手順はオフィシャルサイトに多数あるため、ここでは大まかな流れと気になるポイントを掘り下げます。
目次はこちらです。
無料枠でインスタンス作成
まずは簡単な要件をまとめます。
無料枠でWordPress と言えばコンピューティングサービスですが、EC2かLightsailの二択がありましたので、違いを紹介します。
▼EC2
- EC2はコンピューティング機能のみが提供されている(ストレージやロードバランサ―別途契約要)
- 料金は従量制
- 停止している間は課金されない
- 柔軟性が高い
- 無料利用期間:12か月間無料
▼Lightsail
- ストレージ、スナップショット、ロードバランサー機能、ファイアウォール、DNSなど必要な機能がパッケージで提供されている
- 料金は月額最低3.5ドル(Linux/Unix)から最高240ドル(Windows Server)の月額固定料金
- 停止している間も課金される
- 柔軟性が低い
- 無料利用枠:1か月間無料
ECサイトなど商用目的ならEC2ですが、個人ユースならLightsailだと思います。今回は無料枠1年もあるので試しにEC2を選んでみました。無料利用枠のリンクも一応貼っておきます。
サポートプランの選択
サポートプランも幾つかあります。今回は個人契約なのでベーシックプランです。
この機会に理解を深めるため、ざっくりですが一覧にしてみました。
エンタープライズは月額15000ドル。。なぜこんなに高いのでしょうか。気になったので自分なりに調べてみました。
料金のウエイトを大きく占めるのは、Trusted Advisor、TAMへの直接アクセス、ホワイトグローブケースルーティングの3点だと思われます。
まずTrusted Advisorについてですが、これはAWS固有のサービスみたいですね。AWSの既知のノウハウを駆使しアーキテクチャや運用面に改善余地がないかを精査してくれます。例えばCPUの低いインスタンスだと、これだけ見直せばこのくらいディスカウントできる等が分かります。AWSは、インスタンスやディスク容量、稼働時間、通信量などで従量課金するため、見直す要素が増えればそれだけ節約効果を生みます。そのため、エンタープライズでは、Trusted Advisorの対象が全項目になっています。
次にテクニカルアカウントマネージャ(TAM)に直接アクセスする件ですが、これはAWSの専門家に相談できるサービスです。もし私が大手のCIOでこのサービスを受けられるなら、大規模なDXを検討する際に利用します。例えば、大量のOracleDBをAmzon Auroraに移行したり、WIndowsサーバーをLinuxに移行したりと、クラウド移行に伴い大幅なコストダウンを狙います。それを実行するにあたり、そのリスクや実行性、タイムスパンを調べるために色々と相談します。エンタープライスの月額料金は15,000USDですが、長期的にそれ以上の削減効果を見込めれば一時的でもこのプランを利用する価値はあると思います。
ホワイトグローブケースルーティングは、緊急度の高いサポートケースをAWSが優先的に解決に導くサービスです。例えば、クラウド移行プロジェクト中に未知の不具合が発生したり、クリティカルな問題にぶつかったときに、AWSの精鋭が優先的に助けてくれると心強いですよね。あくまで予想ですが、AWS最上位の プレミアコンサルティングパートナーは常時このサポートプランを契約しているのではないでしょうか。顧客のクラウド移行支援にあたり自社の開発環境で検証し躓いたときには直ぐに対応できるからです。最上位なのに解決できないとなると看板に傷が付きますからね。そして、その出費は移行料やリセールサービスで簡単に回収できると思います。
WordPressのカスタムEC2を選択
EC2では、Wordpressのプレインストール版が無料枠で用意されています。なぜでしょうか。今や世界中のWebサイトの3分の1はWordpressで作られています。そして未だエックスサーバーなどのレンタルサーバーの利用者も多いため、乗り換えの需要も多いはず。またスモールスタートで手軽に乗り換えやすいようt2.microのスモールサイズを無料枠にしておびき寄せているのでは、と思います。案の定、私もこのプランを選択しました。。
キーペアの作成
インスタンスを作成するタイミングでキーペアが作成されます。このキーペアはパブリックキーとプライベートキーを指し、通信の暗号化に利用されます。
プライベートキーは利用者側で保管しますが、これを無くしたりするとEC2のインスタンスに接続できなくなります。復旧するためには、先述したようにインスタンスを作成するタイミングで、キーペアを対応付します。詳細な手順はこちらのブログで紹介されています。
補足情報ですが、AMIはインスタンスを作成するための諸設定が保存されたテンプレートです。そのテンプレートを別でコピーする事も可能ですし、コピーしたテンプレートから同じインスタンスを立ち上げることも可能です。既存のインスタンスをカスタマイズし、そのインスタンスからカスタムAMIとして保存することも可能です。このWordPress付のAMIもカスタマイズされて提供されたものでしょう。有料でカスタムAMIを提供しているものもあるので、スクラッチで作成しなくても探せば構築の手間が省けそうですね。
出典:https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/AWSEC2/latest/UserGuide/AMIs.html
まとめ
AWSのナレッジは豊富なため実際の手順は殆ど困りませんでした。なので意識するところは、手順を追うことだけでなく、クラウド特有の料金パターンやアーキテクチャ、最適な運用方法を把握することだと思いました。直ぐに分かる知識よりは、がんばって調べて応用できる知恵の方が情報価値が高いからです。そのため今回は構築手順の中でも気になるポイントを掘り下げて解説してみました。
早速、次のフェーズである、ドメイン登録やデータ移行、ブログの公開までをまとめましたので、興味のある方ご覧ください。
今回の手順はオフィシャルにあるためご参考ください。
令和元年度秋季の高度情報処理技術者試験から窺える日本の課題
こんにちは、Taikiです。
試験では旬なテクノロジーに関わる問題が幾つか出題されましたが、今回は特に気になった問題を取り上げ、出題したIPA(経産省管轄の独立行政法人)の意図を考えてみようかと思います。対象は午前Iです。
情報処理技術者試験(じょうほうしょりぎじゅつしゃしけん)は、情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)の規定に基づき、経済産業大臣が実施する情報処理に関する業務を行う者の技術の向上に資するため、情報処理に関して必要な知識及び技能を問う、日本の国家試験である。
出典:Wikipedia
目次はこちらです。
機械学習について
Q. AIの機械学習における教師なし学習で用いられる手法として、最も適切なものはどれか。
A. データ同士の類似度を定義し、その定義した類似度に従って似たもの同士は同じグループに入るようにデータをグループ化するクラスタリング
出題の理由に触れる前に少し説明します。
AIの機械学習には、「教師あり学習」と「教師なし学習」があります。「教師あり学習」は正解を機械に学習させるパターンです。例えば、花の画像に「桜」など名称のラベルを付けて学習させれば花図鑑のAIが作れますね。
先の問題にある「教師なし学習」とは逆に正解がないパターンです。例えば良く分からない物体を目にすると人間は何を考えるでしょうか。その形や色、特徴を捉えて脳内の整理棚で分類分けを始めます。「クラスタリング」もほぼ同じ考えで、多くのデータから類似性をみつけ似たもの同士をグループ化します。
IPAがこれを出題した理由は、恐らく色々な分野で使える成長著しい技術だからです。
例えばECサイトに誘導する方法としてレコメンド機能があります。利用者の好みにあった物品やサービスを推薦する機能ですが、これもクラスタリングが使われています。
確か検索トップページにオススメ記事を並べるGoogle Discoverもレコメンド機能だと思います。ここに掲載される記事はバズりやすいのでGoogle砲とも呼ばれていますが。
防災の分野においては、音や振動などのセンサー情報を集めてグループ化し、橋やトンネル、道路などの状態を検知する予知保全にもクラスタリングの技術は適しています。昨今の災害で交通インフラに大きな打撃を与えているため、この分野は特に注目されるでしょう。
RPAについて
Q. RPA(Robotic Proccess AutoMation)の説明はどれか
A. ホワイトカラーの単純な関節作業を、ルールエンジンや認知技術などを活用して代行する
まずはルールエンジンの説明を抜粋します。
ルールエンジンは、業務知識をルールベースとして蓄積することで、高度な意思決定の自動化を実現するシステムです。人が持つ知識をシステムに組み込むことで、知識の運用と活用をサポートします。
RPAはデスクワークのルーチンを自動化するもので、工場に使われるハードウェアロボットとは違います。これを出題した理由は、「自動化・省人化」というテーマが政府主導の働き方改革の一環だからです。その背景は少子高齢化と労働人口の減少でしょう。年代別の人口推移を見ると、赤色(15-64歳人口)は相対的に減少の一途です。
出典:総務省
RPAは膨大なデータが飛び交う金融業界、契約プランや料金体系が複雑な保険業界を中心に導入が進み、数千時間の工数削減や数十人の省人化に成功した例もあります。
しかしRPAといえど人の子、導入するだけでは効果がありません。その活用のために勉強会を開き、業務分析を重ね、業務プロセスの可視化やシナリオ作成を行う等、時間をかけてRPAを育て上げた組織だけがその恩恵を預かれます。
エネルギーハーベスティングについて
Q. エネルギーハーベスティングの適用例として、適切なものはどれか。
A. スイッチを押す力を電力に変換して作業するRFリモコン
エネルギーハーベスティングの説明を抜粋します。
環境発電(エネルギーハーベス)は、電池やケーブル等による電力供給を必要とせずに機器等を駆動させる技術であり、エネルギーの効率的な利用が叫ばれる中、今日、注目度が高まってきているものです。なぜ電源が要らないかというと、身の回りにある光や熱、振動、電波のエネルギーを電気エネルギーに変換するからです。利用できるエネルギーとしては、例えば、室内の照明光、工場の廃熱、私たちの体温、道路の振動、携帯電話の基地局から発せられる電波等、様々です。こうしたエネルギーを回収することを「収穫」に例えて、エネルギーハーベストとも呼んでいます。
出典:富士通総研
つまり、エネルギーハーベスティングとは、自給自足の究極な省エネ法です。
IPAがこの問題を出題した理由は、ヘルスモニタリング事業に大きな可能性を感じているからです。例えば、橋や道路の異常を検知するセンサー、自動車のタイヤの空気圧を調べるセンサー、畑の土壌の気温や湿度、肥料の量等をモニタリングするセンサー、いずれも電源の引き込みが難しいですよね。しかし、振動や太陽光、内外の温度差で自己発電できればこの問題は解決します。
昨今注目されるIoTの推進には、先のAIとこのエネルギーハーベスティングの技術が必要です。プラットフォームサービスの分野で遅れを取っている日本はハードウェアの分野で挽回するしかないと思っていますが、その代表例がIoTであり、その前提がAIとエネルギーハーベスティングです。
まとめ
機械学習、RPA、環境発電、出題された問題を貫く1つのテーマは、日本経済の持続的成長ではないでしょうか。どれも日本に残された数少ない挽回の切り札です。
試験後、問題を見直し答え合わせをしましたが残念な結果になりそうです。。来年もチャレンジし、また面白そうなトピックがあれば発信します。
IoT関連ではこの本が特に読みやすいと思いましたのでご参考までに。
台風による大雨被害のメカニズムと政府に求められる対応
こんにちは、Taikiです。
昨今異常気象により台風が猛威を振るい各地で大雨洪水が多発しています。
台風19号の人的被害は、死者79名、行方不明者10人とまだ拡大しております。ご冥福と早期復興を祈るばかりです。
今回は私なりに大雨被害のメカニズムを明らかにし、人的被害・住宅被害を大きくした要因に迫りたいと思います。
目次はこちらです。
ダム緊急放流の理由
城山ダムの緊急放流が川の水位を上げたとして非難の声があがっていました。
ダムは治水管理を担い、放流したり貯水することで下流の水量を調節しています。今回は大雨により貯水の閾値を超えたため、緊急放流となりました。もし閾値を超えたまま、貯水を続けていればダム決壊の恐れがありました。城山ダムが決壊すると下流に膨大な水量が流れ込み、神奈川県は甚大な被害を受けていたでしょう。
出典:NHK
なぜ貯水量が多くなるとダム決壊の恐れがあるのでしょうか。それは水位と水圧に関係しています。水圧の計算式はこちらです。たぶん高校の数学あたりで出てきます。
水圧 p は、p=ρhgという公式を使って計算することができます。
ρ は液体の密度、g は重力加速度、h は水の深さです。水深が1メートル増えるごとに、1cm2 あたり1ニュートンの力(地球上で約100グラムの物体を支えるのに必要な力)が追加でかかると言えます。
水深が 10 メートル増えるごとに、1cm2 あたり 10 ニュートンの力(地球上で約1キログラムの物体を支えるのに必要な力)が追加でかかると言えます。水深が1メートル増えるごとに、圧力は 10000 パスカルずつ増えていくと言えます。
城山ダムの面積が1201.3km2だとすると・・・その水圧の大きさは計りしれません。。
堤防が決壊する理由
堤防とは住居エリアに水が浸入しないように土砂やコンクリートを盛り上げて作った治水用の構造物です。今回の台風被害では、この堤防が130か所以上で決壊し甚大な被害を与えました。今回の台風被害の大きな要因はこの堤防決壊と言えます。
13日福島県で阿武隈川の堤防が決壊しました。福島県では29人の犠牲が出ています。犠牲者の多くは体の不自由な高齢者ばかりです。
堤防が決壊する理由の1つは「バックウォーター現象」です。2つの川が交差するポイントで、流れの早い川(本流)が優先して押し出され、流れの遅い川(支流)は滞留してしまいます。次第に支流の水位が上昇し付近の堤防が決壊してしまいます。この現象は、2018年に岡山県・倉敷市の真備町でも発生し、町の4分の1は浸水し42名の犠牲者が出ました。つまり、支流ほど水位が上昇しやすく氾濫の恐れがあります。
2つ目の理由としては、堤防の強度不足です。こちらは、ある専門家の見解です。
「千曲川や那珂川(なかがわ)などで堤防決壊が起きていますが、既に堤防決壊しにくい堤防技術ができているのです。その技術を国交省はなかなか認めようとしない。認めてしまうとダムを作りにくくなるためと(私は)見ていますが、(その技術開発は)国交省自身が始めたものですが、それを途中から否定して進めなくなった。これも大変な問題だと思います」
この専門家によると、巨額予算確保や天下り先作りのために、ダム最優先・堤防強化は二の次と政府の対応を酷評していました。もちろん堤防を強化するに越したことはないですが、強度の弱い堤防の数はどの位あるのでしょうか。またどの堤防から優先的に強化すべきでしょうか。ダム建築し上流で治水効果を向上させる事と比べ費用対効果はどうでしょうか。まずは問題の全容を知ることが必要です。
住居地が浸水する理由
住居地が浸水する主な原因は、先の堤防決壊と内水氾濫です。川崎市内で発生した大規模な浸水は、排水口よりも多摩川の水位が上昇し川の水が排水管から逆流した事が原因です。つまり川崎市の浸水は、外側からの氾濫ではなく排水管を経由した内側からのものでした。
武蔵小杉のタワマンは、外部からの浸水に備え、土地かさ上げの対策はできていましたが、内部からの浸水は想定外だったようです。このタワマンは今も停電や断水が続いています。
まとめ
今回は、ダム放流から堤防決壊、都市部の浸水へと上流から順に問題を取り上げ、そのメカニズムに迫りました。
今回の台風で最も被害を与えた要因は堤防決壊です。早急な対策が求められますが、まずは被災地の復旧です。温暖化現象に伴う台風の増大を考慮すると、単なる復旧ではなく災害を再発させない「改良復旧」を推し進めるべきでしょう。
個人レベルの対策としては、SNS等の情報収集も大事ですが、平時の時こそ防災意識を高めておくことかと思います。個人的にはこの2冊が読みやすいと思いましたのでご参考までに。
Googleの無料サービスでみるマネタイズ手法と「Do the right thing」の真意
こんにちは、Taikiです。
30回目の記事は、いつもお世話になっているGoogleについて書きたいと思います。皆さんは、Googleが提供するサービスを幾つ使用していますか。
私は、Chrome、マップ、カレンダー、ハングアウト、フォト、ドライブと無料で沢山のアプリを使っています。なぜGoogleはこれほど無料なサービスを提供してくれるのでしょうか。この疑問は、Googleのマネタイズと深く関係していますが、今回はこの点に迫りたいと思います。
目次はこちらです。
検索ビジネスの収益化
Googleが無料でサービスを提供する理由の1つは、言わずもがな広告収入です。Googleの収入源の約7割は広告収入によるものですが、なぜGoogleは多くのネットユーザーの人気を集めることができたのでしょうか。
Googleが提供する、検索エンジンのサービスには2つの必須条件があります。1つ目はユーザーが検索したい結果が返ってくる事、2つ目は広告のコンバージョン率を高める事です。つまりユーザーと広告主の両方を満足させることが検索エンジンの必須条件になります。Googleはこの条件を満たし、並み居る競合の中で、検索ビジネスのトップに君臨しました。詳細はこちらになります。
グーグルのペイジ氏とブリン氏は、まずワールドワイドウェブ(www)の各ページを結ぶリンクを選挙の投票に見立て、その数を数えることでページをランク付けするという仕組みを考えた。つまり、「被リンク数が多いページこそ、価値があるページ」という考えである。これこそが、単なる検索システムとは一線を画す新たなカテゴリーの創造だった。
さらに、この新たな検索方法を収益に換える手段をつくる。「アドワーズ」である。これによって、ユーザーが検索した対象に見合った広告を表示することができるようになり、広告主も「広告が見られた回数」ではなく「広告がもたらす成果」に対して報酬を払うことができる仕組みが整えられた。
検索ビジネスで勝利を得たGoogleは、世界のネットユーザーから支持を集め、巨大なマーケットと広告収入を手に入れました。
モバイルユーザーの獲得
さらなるマーケット拡大のため、Googleはモバイル事業に着手しました。まずはAndroidの例を見てみましょう。
スマートフォンという大きな市場をAppleの「アイフォーン」が築き上げましたが、Appleの「アイフォーン」は高級品だったため、新興国ではあまりシェアを伸ばすことが出来ませんでした。
そこでGoogle社が「アンドロイド」社を買収し、デバイスを作ることなくOSだけ他社に開放し(差別化)、中国・韓国のハードウェアの会社に低価格のスマートフォンデバイスを大量生産させました。(低コスト化)
それにより現在ではスマートフォンのOSのマーケットシェアはアンドロイドが70%と完全な独占企業となりました。
Googleがアンドロイド社を買収し、スマートフォンOSのマーケットシェアの大半を獲得した理由、それはAppleが取りこぼした潜在的なモバイルユーザーを獲得することでした。しかし、Googleは、iPhoneユーザーの殆どを自社の検索エンジンに誘導する事にも成功しました。
GoogleはiPhoneやiPadのSafariでデフォルトの検索エンジンとして自社サービスを指定してもらうため、多額の支払いをしているというのは有名な話です。その具体的な金額は公表されていませんが、アナリストが90億ドル規模(約1兆円)であるとの推計を発表しています。Appleが提供するWebブラウザ「Safari」はデフォルトの状態だと検索サービスはGoogleを利用する設定となっています。設定画面からYahooやBing、DuckDuckGoに変更することはできるのですが、これを敢えて変更して使う人は少ないでしょう。Safariがデフォルト検索エンジンとしてGoogleを指定していることで、結果として大量のトラフィックがGoogleへと流れています。
以上の事から、AndroidとiOS、スマートフォンOSの2強がGoogleの検索エンジンをデフォルトで採用している事が分かります。
機会と強みを活かした買収戦略
Googleが無料サービスを提供する理由は広告収入もそうですが、もう1つ欲しいものがあります。それは情報です。Googleは無料のプラットフォームを提供する代わりに、膨大なユーザー情報を集めています。この情報を分析すれば次にどんな事業がバズるかの大きなヒントになります。
例えば、Googleは、膨大なデータから無料動画を視聴したい、というユーザーの強い要望に気付き、既に無料動画を提供するYouTubeと自社の強みである広告収入を掛け合わせて大きな収益源にしました。
また膨大なデータから地図検索のサービスに大きな需要がある事に気付き、既に存在する衛星地図ベンチャーのキーホールを買収しました。その地図検索サービスと自社の強みである広告収入を結びつけ、これもまた収入源にしました、その上、Airbnb、Uber、日本交通、ぐるなび等にGoogle Mapのアドインを提供し、使用料を徴収するようになりました。この地図検索は更に充実したものとなり、優位性の高いGoogleのサービスの1つになっています。
SWOT分析という、強みと弱み、機会と脅威を分析して経営戦略を立てる手法があります。Googleのビジネスモデルに当て込むと、Googleは自社が保有する膨大なデータを分析して、将来バズるビジネスチャンスを逸早く察知し、自社の強みである広告収入を武器に利益を得ています。更に、自社の得意分野でない(弱み)、特定のコンテンツは企業ごと買収し、自社にとっての脅威を早めに潰しています。
Googleが掲げる「Do the right thing」の真意
Googleの社是に、「Do the right thing」(正しいことをしよう)というフレーズがあります。この真意を考えてみましょう。
例えば、Googleのキーワード広告の場合、検索した言葉と関連度合が高ければ高いほど、広告費に関係なく上位に表示されます。いくらお金を積んでも、関連度合いが高くなければ上には上がりません。
またGoogleは検索アルゴリズムを明確にせず、ページのランクを上げるためにはユーザーの利便性を最優先に考慮するよう説明しています。アルゴリズムを公開してしまえば、検索エンジンのためのサイトになり、ユーザーの利便性を損ねてしまうからです。
Googleが「Do the right thing」を掲げる理由は、公平なサービスこそが、最高の顧客価値であり、同社の生命線だからです。仮に料金に応じて広告が上位に引き上げられたり、検索結果が恣意的に歪められたらどうなるでしょうか。同社の存在価値が薄まりユーザー離れの恐れがあります。
昨年、人口知能とドローンを使用した攻撃兵器の開発協力について、Googleが米国防総省との契約を打ち切りました。この協力は、「Do the right thing」に反する活動として、社内外で多くの批判がありました。
ロサンゼルス(CNNMoney) 米グーグルは1日、人工知能(AI)を使い小型無人飛行機(ドローン)による攻撃精度を高める米国防総省の事業への協力を来年3月いっぱいで打ち切るとの方針を明らかにした。
CNNの取材に応じたこの問題の経緯に通じる消息筋によると、契約更新を拒否する方針は同社幹部が従業員に示した。同月までの契約内容は尊重するとしている。「Project Maven」と呼ばれる事業での契約更新の拒否は一般社会や社内での批判を踏まえたものとなっている。
あのまま協力を続けていれば、Googleは政府の干渉を強く受け、ユーザーに公平なサービスを提供し続けることは難しかったかもしれません。私がそう思った理由は、大手通信会社のベライゾンのある一件を思い出したからです。2014年、エドワード・スノーデンの告発により、同社は米国政府に膨大な顧客情報を提供していたことが発覚し、信頼と共に多数の顧客を失いました。
ドイツ政府は26日、米情報当局による自国内での盗聴疑惑を受け、米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ.N)との契約を解除したと発表した。
元米中央情報局(CIA)職員のスノーデン容疑者が持ち出した機密資料によると、米国家安全保障局(NSA)は独国内で大規模な情報収集活動を行い、メルケル首相の携帯電話も盗聴していたとされる。ベライゾンは国内外の通信記録を米情報当局に提出することが義務付けられていた。
独内務省は声明で「通信網への圧力、高度なウイルスや『トロイの木馬』のリスクが高まっている」と指摘した上で、「NSAの問題で明らかになった外国の情報機関と企業の関係は、独政府が重要なネットワークに極めて高度のセキュリティーを必要としていることを浮き彫りにした」と強調した。
出典:ロイター通信
こういった経緯を見ると、GAFAなど巨大プラットフォーマー達が政府と対立する構図がより鮮明になります。特定の組織にサービスが偏ると公平さが侵害され、自社の存続が危ぶまるからです。しかし、政府にとっても自国の利益や防衛のため、有用な情報を取らない手はありません。しかしGAFAが協力を拒むなら、もはやタックス・ヘイブン(租税回避地)など税金逃れを見過ごすことはできず、巨大プラットフォーマーと政府の対立は、今後も続いていくでしょう。
まとめ
Googleが無料サービスを提供する理由、それはユーザーのアクセス数を集め広告収入を得る事、またユーザーの動向や傾向を逸早くつかみ次の収益源を見つけるためです。
また「Do the right thing」の真意は、サービスの公平さ(≒正しいこと)こそが最高の顧客価値であり、自社の存続に関わる生命線である事を意味しています。ベライゾンの例でも分かるようサービスの公平さを失った瞬間から崩壊は始まります。確かな事はGoogleの脅威は政府を敵にまわすよりもユーザーの信頼を失うことでしょう。
提案の質を上げるために考える事
こんにちは、Taikiです。
先日ある知人から店舗にWi-Fiを導入したいとの相談を受けました。お客様にWi-Fiを公開し訪問数を増やして売上に繋げたいそうです。本部への提案前に相談を頂きましたが、この提案には、どんな課題があるでしょうか。今回は、この点に迫ります。
目次はこちらです。
戦略の立て方
店舗Wi-Fiの導入で、どう売上を伸ばすことができるのでしょうか。知人の説明では、「Wi-Fiを導入することで、お店の訪問数を増やすことができる。Wi-Fiのログイン画面から自社の特定サイトを訪れてもらえれば会員数も増やる。その結果、リピータも増え売上を増やすことができる。」だそうです。
しかし、この説明では採算が分かりません。モバイルルーターか固定回線、いずれにしても初期費用や月額費用が発生します。それに見合う効果はあるのでしょうか。もし売上を、「客数x客単価x購入頻度」と定義すると、Wi-Fi導入で、どれをどの程度増やせるかが争点になります。
確かに、Wi-Fiの導入店舗は増えてきました。しかし、それだけでは他店との差別化が難しくなります。先の説明では本部を納得させることはできないでしょう。この提案の弱点は根拠が乏しい事です。知人は、採算の根拠が乏しいマーケティングを軸にWi-Fi導入を企画してしまいました。
少し話は変わりますが、アンゾフの成長戦略というものがあります。市場か製品か、優位性を持つ方を軸に戦略展開するというものです。この戦略をヒントにすると、より根拠がある領域で企画提案できないかという発想が生まれます。例えば社内の業務改善です。ここに着目する理由は2つあります。
- 今までネット回線がなかった為、導入した時の改善余地や効果が大きい
- 社内の業務分析の方が効果を数値化しやすい
もしこの提案が通れば、これを布石にWi-Fi導入の線も見えてきます。一旦回線を引き込めばVLAN化し社内と社外用とで分けて使えるからです。また回線導入で業務改善が進みコスト削減できれば、新商品の販促やアンケート調査など、店舗Wi-Fi導入の目的をよりクリエイティブなものにできます。
よりコントロールしやすい武器で勝負する、初回の施策ではこの点が特に重要になります。但し業務改善にも相応のコストがかかるため、その費用やリスクも含めマイナス要因の評価を入念に行う必要があります。
消費行動のプロセス化とボトルネックの特定
では、Wi-Fiを導入するとして、その後はどうすれば良いでしょうか。
まずはWi-FI利用者の行動分析が基本ですが、消費購買プロセスのフレームワークにAIDA(アイダ)というものあります。
- Attention(認知)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Action(行動)
AIDAを参考にWi-Fi導入後の消費プロセスを考えてみましょう。
消費者の行動プロセスを考える理由はボトルネックを掴むためです。店側は来客者にWi-FI利用後、特定のページにアクセスしてもらい、クーポンを利用してもらいたいとします。各フローの状況が分かれば、どこがボトルネックかを特定することができます。
例えば、来客数は多くてもWi-Fi利用者数が少なければ、その存在やメリットを周知する施策を立てます。Wi-Fi利用者数が多くてもページアクセス数が少なければ、興味付けができていない又は分かりにくいという事が考えられます。ページアクセス数が多くてもクーポン利用数が少なければ商品自体に価値を感じていないのかもしれません。
ボトルネックが分かれば、原因を絞り込め課題も見えてきます。後は、PDCAのサイクルに乗せて最適化を繰り返すことです。そうすると、消費者の行動がより可視化され、有益なデータやパターンが見えてくるのではないでしょうか。
まとめ
資本の大きな組織では、この手の情報収集はビッグデータに吸い上げ、自動解析させたりしますが、目的は傾向と対策です。その公式を組み上げるのは人間の仕事、マシン側にはその変数に必要な値を算出してもらう、それが実際の役割分担ではないでしょうか。
提案の質を上げるために考える事、それは採算ありきが前提だという事です。その採算を立証するためには、根拠となる確かな数字が必要です。従って前例のないアイデアで仮説を立てるよりもデータが豊富な実績をベースに提案することが定石といえます。
多数の意見をまとめるコツと方針の定め方
こんにちは、Taikiです。
何かを決める時に多数の意見が出た場合、皆が納得する方針を定めるためには、どうしたら良いでしょうか。今回はこの点に迫ります。
目次はこちらになります。
特定のアイデアを掘り下げない
まずブレストではアイデア出しに専念しましょう。
ブレストでありがちなパターンは特定のアイデアを掘り下げることです。ブレストの目的は、漏れなく全てのアイデアを出すことです。その最中に特定のアイデアを掘り下げると全体を網羅する前に時間切れとなり、別の良いアイデアが埋没してしまいます。
共通項でグルーピングする
アイデアが出たら共通項でグルーピングしますが、皆さんが良く知っているフレームワーク思考を使うのも一つの手です。
ここでは、業務改善を例にグルーピングしたいと思います。例えば、業務改善のブレストでこのような意見が出たら、どうグルーピングしますか。
- ソフトウェアを購入する
- 業務プロセスを見直す
- ジョブローテーションする
- ドキュメントを簡素化する
- クラウド化・仮想化する
- 一部作業をアウトソースする
- 外部の専門家に相談する
- 人員を追加する
- システムを改修する
業務改善といえば、前回記事にしたITILのフレームワークが使えそうです。
ITILには、サービスマネジメントを考える上で4つの重大な要素があります。
- Product(商品)
- Process(プロセス)
- Person(人)
- Partner(パートナー)
この要素でグループ分けすると、下表のようになります。要は、何を使って業務改善をするかを考えることです。
上位層を意識する
更に、各グループの上位層が何かを考えてみます。上位層を意識する理由は、全体像を掴み、優先順位をつけやすくするためです。ここでは、二項対立の視点から、内部要因と外部要因で分けてみました。
優先順位を決める
最後に優先順位ですが、どういう視点で優先付けをしたら良いでしょうか。
業務の流れを考える
業務の流れで考えると、上流は内部要因、下流は外部要因です。原則として、上流がボトルネックになりやすいため、上流からの着手が定石となります。
仮に下流の外部要因から着手すると、リソースが無駄になる事が多々あります。RPAツールを導入後に業務簡素化したら実はツールが不要だったり、方針が決まっていないのに外部の専門家に依頼すると出費が嵩んだりもします。
制約条件を満たしているか
いかに有効な対策であっても実現性がなければ時間の無駄です。コストが高すぎないか、日数がかかりすぎないか、システム要件はどうか等の制約条件を満たしているかをまず確認します。
ここでは予算を考えて「人員を追加する」というアイデアは没にしました。
インパクトの大きさ
制約条件の後は、インパクトの大きさで考えます。生産性向上のコンサルティング手法では、インパクトはこのように考えるそうです。
インパクト=改善余地の大きさ x 改善余地を埋めるポテンシャル
改善余地の大きさは、システムの古さや組織の体質、社員の成熟度などが深く関係しそうです。レガシーなシステムや保守的な組織体質、社員のキャリアが長いという前提条件であれば、改善できる余地やポテンシャルも少ないのではないでしょうか。
ここでも同じ前提として、「業務プロセスを見直す」と「ドキュメントを簡素化する」というアイデアは排除します。
リスク対策
実行後のリスクを最小限に抑える事がリスク対策の目的です。残されたアイデアはジョブローテーションですが、これを実行に移すと、どんなリスクがあるでしょうか。リスク対策のポイントはこちらです。
- 対象範囲の設定
- 危険エリア
- 具体的問題の列挙
- リスクの原因と予防対策
まずジョブローテ後、新たに別の社員がある企業の担当になるとします。そこで対象範囲は、その担当企業に関わる業務に設定しましょう。
次に、危険エリアですが、ここはQCDで考えてみます。例えば、ジョブローテ後の担当者の能力が低ければサービスの品質に関わります。また変更した担当者の人件費が高ければ顧客の売上に対して費用が高くつきます。急ぎのプロジェクトが進行中なら納期にも関わります。このようにQCDを軸に、危険エリアを設定します。
後は、危険エリアで想定される問題を列挙し、原因と予防対策を重点分析します。
まとめ
多数の意見をまとめるコツは、何よりも関係者に納得してもらう事です。例え良いアイデアでも納得を得られなければ提案は通りません。
納得してもらうためには、関係者にまず参画意識を持たせる事です。ブレストもその一環です。その後、グルーピングや上位概念で全体像を掴んでもらい、その中で特定のアイデアを採用する根拠として、優先順位とリスク対策が含まれていれば及第点です。仮に期待通りの成果が出なくても皆が合意した結論であれば、後で揉める事は殆どありません。
一番良くない事は、提案も相談もなく見切り発射で進める事です。失敗すれば信用が失墜し関係も悪化します。
顧客の成果にコミットしないと生き残れない理由
こんにちは、Taikiです。
昨今、国内市場は習熟化し競争は激化する一方です。この時代、顧客に選ばれるために何を考えどう行動すれば良いでしょうか。今回はこの点に迫ります。
目次はこちらです。
カスタマーサクセスとは何か
カスタマーサクセスという言葉をご存知でしょうか。
Salseforceも早くに着手したこの理論は、端的に言うと、「顧客の成功=自社の成功」というごく当たり前の考え方です。なぜごく当たり前のこの理論が今注目されうようになってきているのでしょうか。
カスタマーサクセスの目的は、LTV(顧客生涯価値)の最大化です。LTVの考え方はこちらを参考にしてください。
LTV=購買単価×購買頻度×契約継続期間
購買単価を上げるか、購買頻度を高めるか、契約期間を長期化することでLTVは向上します。顧客に価値を感じ続けてもらうことが出来れば、おのずと契約期間も長くなるでしょう。また、より単価の高いアップグレード商品・サービスを推奨する「アップセル」や、別の商品・サービスを合わせて購入してもらう「クロスセル」などの手段を活用して、購買単価や購買頻度の向上を図ります。
では、どうすれば顧客はその商品やサービスに価値を感じるのでしょうか。単に顧客が欲しいものを提供すれば良いのでしょうか。
顧客のリクエストは単なる的外れな思い付きの要求かもしれません。ハーバード・ビジネススクールのクリステンセン教授は、「片づけられない用事」という表現を使い、顧客は自己解決できない問題を常に抱えていると言います。何かをしたい、何かが欲しいという要求の裏には本当の問題が潜んでいる可能性があります。その問題の本質を捉え、価値提案することがカスタマーサクセスの狙いです。
カスタマーサポートとカスタマーサクセスの違いを考えると更に理解が進みます。略称はどちらもCSなのでよく混同されますが、二項対立で考えるとその違いは明らかです。カスタマーサポートは受動的・リアクティブな支援を行うのに対し、カスタマーサクセスは能動的・プロアクティブな支援を行います。言い換えると、カスタマーサクセスは上流にある消費者の意識や価値観の形成を支援し、カスタマーサポートは下流に位置する消費や購買行動を支援をします。
なぜカスタマーサクセスが必要なのか
なぜ今カスタマーサクセスが求められているのか、ビジネスの現状を考えるとその理由が見えてきます。
- マーケットの習熟化
- 商品のコンシューマー化
- サプライヤーの乱立
- 品質やコストでは差別化しにくい
- 「所有」よりも「利用」
市場が習熟化してサプライヤーが乱立すると、モノやサービスはすぐに代替可能となります。モノがあふれると執着心が薄れ、所有よりも利用という考えが生まれます。その結果、サブスクリプションやシェアリングエコノミーのトレンドが強まり、どんどん乗り換えやすい時代へと移行します。そうなると、購入してもらだけを想定すれば良かったサプライヤーは、利用してからの顧客体験も重視するようになります。価格や品質だけでなく、使っててからの心地良さや快適さがますます求められるようになったからです。こういった経緯があって、顧客の成功に向かって伴走する、カスタマーサクセスの考え方が注目されるようになりました。
あるべき姿を考える
先ほど要求の裏に「片づけられない用事」があることをお伝えしました。何かを要求されたり相談されるときに、表面的な事象にとらわれてはいけません。プロジェクトが何度も失敗する様を見てきましたが、表面的な事象を真の問題と捉え次々と解決しようとする姿は、延々と続くモグラ叩きに似ています。予算や人員等の資源ばかりが奪われ根本的な解決には至りません。
片づけられない用事を片づけるためには、現状ではなく、あるべき姿という高い位置から俯瞰する事が重要です。そして、あるべき姿と現状のギャップこそが真の解決すべき問題となります。
顧客のリクエストは、こうしたい、何が欲しいという特定の手段や商品を指すことが多いでしょう。しかし、カスタマーサクセスとは、特定の手段や商品に囚われず、あるべき姿から逆算して戦略や方向性を決めていきます。
例えば、RPA(作業自動化ツール)を使って業務改善したいと相談があったとしましょう。あるべき姿とは、RPAを使う事ではく業務負担を減らす事です。もし業務簡素化のアドバイスをして業務負担が減り、RPAを買う理由がなくなくなったとしましょう。RPAを買うのと買わずに解決する事、どちらが喜ばれるかは明白です。
RPAを提案した方が良い場合もあります。些細なシステムの改修で入札条件を決め相見積を取り要件を決めて等とやっていると時間がとてもかかります。コストとリスク、準備期間と効果継続性で評価するとRPAのメリットが大きいというケースも多々あります。
問題の本質を掴み、最小限のステップで解決に導く、その問題解決能力こそが、カスタマーサクセスの必要条件です。そのために、問題の全体像を明らかにする、MECEの発想が不可欠となります。
カスタマーサクセスの代表例
カスタマーサクセスの代表例は何でしょうか。分かりやすい例がライザップの広告戦略です。弛んだ体と引き締まった体、そのビフォーアフターを見れば、現状とあるべき姿が分かります。そのギャップこそが問題だと提起し、それを解決できるのはライザップだと主張しています。全額返金制度や「結果にコミットする」といった言い回し、数々のタレントの成功例もその主張の論拠となっています。
次にお馴染みのスタバです。スタバは単なるカフェではなく、多忙な学生や会社員のサードプレイスとなっています。同社の元会長兼社長兼CEO、ハワード・シュルツ氏はこう話します。
ある統計によれば、私たちの年代は、両親の世代より年間100時間以上多く働いているといいます。加えて、携帯電話やメール、ファックスなど、プレッシャーを生み出すものがたくさんある。スターバックスは、そういうものから逃れて休息する場所、オアシス。私たちは店を「サードプレイス」といって、自宅と職場の間というポジションだと考えています。そして、そこで生み出されるのは「コミュニティー」というフィーリング。店を訪れた人同士がつながる、スターバックスはそういう場を提供しているのです。
スタバは、カフェのあるべき姿やお客の求める空間を設定し、オシャレなインテリア、間接照明、くつろげる音楽、フレンドリーなスタッフなどにこだわりました。その結果、皆に快適さを与える顧客体験を創造し、コーヒーの味や値段以上の価値を生み出しています。
ジャパネットたかたはどうでしょうか。同社の高田元社長は、単なる実演販売だけでなく、ユニークな商品の使い方を提案します。
たとえば、会議やインタビューで使うボイスレコーダーを「おじいさんやお母さんこそ使ってほしい」と勧めることだ。物忘れが多くなる年代はメモ代わりに使ってはどうでしょうか、私も使っています。あるいは働くお母さんが子どもにおかえりのメッセージを残しておいたら、子どもは安心しますよ。こういった生活シーンに根差した「使う側も知らない使い方」を提案するのが高田氏のこだわりだ。
こういったラテラルな提案が、製品のあり方や顧客の意識を変え、販路拡大さえも可能にするのではないでしょうか。
一蘭というラーメン屋をご存知でしょうか。他店と違いパーティション分けされ半個室の席が用意されています。その席に座ったお客は、素材や麺の拘りが書かれたメモを読み、その情報とラーメンを食します。行動心理学者のダン・アリエリー博士によると、私たちの脳は「これはいい」と思ったものをより美味しく感じる習性を持っています。この半個室の席はラーメンを食べるべき姿から逆算した、一蘭の戦略とも言えるでしょう。
まとめ
顧客の成果にコミットする、その意味は、顧客自身でさえも分からない潜在的な問題を、あるべき姿から明確にし、それを解決するための顧客体験を提供することにあります。もしそれがハマれば、他社ではなかなか真似のできない競争優位性を獲得することができるでしょう。そして、それこそがこの時代に生き残るための戦略思考だと思います。
指示通りに動くと失敗しやすい理由とマニュアル人間にならないための施策
こんにちは、Taikiです。
どの仕事にも組織の方針や上司の指示、業務手順などの決まり事があります。その決まり事に従っていれば、失敗はないのでしょうか。
マニュアル通りに行う事と正しく行う事とは違います。マニュアル通りとは、既存のやり方を正しいと思いこむ事です。なぜ正しいはずのマニュアルが失敗の原因となるのでしょうか。今回はこの理由に迫ります。
目次はこちらになります。
ジワジワと失敗する
上司の指示通りに動くと少しづつ忙殺される可能性があります。常にビジネスやテクノロジーは変化しています。これに対応できていない、従来の方針通りに仕事をすれば、やればやるほど時間の損失が嵩み忙殺されます。
従順な方が評価されやすいかもしれませんが、その分、任せられる業務も多くなります。無駄を抱えたまま仕事を続けるとどうなるでしょうか。年数が経つほど慢性的に忙しくなります。結果、仕事の大半はルーティーンワークに取られ、クリエィティブな時間は殆ど確保できず、生産性は落ちる一方です。更に、KPIなど客観的な評価指標がない組織だと、属人的な評価制度が横行し、改革の意欲も失せ社畜化します。
大きな失敗をする
指示通りに働くとプロジェクトと心中することになるかもしれません。プロジェクトとは規模が大きい仕事です。規模が大きい程、集団心理が働き、全ての決定が正しいと思いこみ見落としに気付きません、または見通しに気付いても楽観視します。
代表的な例はセブンペイ事件ではないでしょうか。あれだけ大組織でありながら、二段階認証などの基本的なセキュリティ対策が漏れ、不正利用により、ユーザーに大きな被害を与えました。おそらく、CIOなる担当もいて、複数のベンダーも関わり、ノウハウもあったはずです。ヒエラルキーによるトップダウンの命令に誰も逆らえず、問題を楽観視しながらサービスインしたことは容易に想像できます。まさに起こるべくして起きた問題です。セブンペイの事件は、システムの脆弱さではなく、組織の脆弱さにより引き起こされました。組織の脆弱さとは、マニュアル通りの指示通りにしか動けないという組織体質です。
失敗の癖がつく
上記二点は、一過性のものですが、マニュアル通りに動くことが定着すると判断力が奪われ、慢性的に仕事ができない状態に陥ります。忠誠心や従順さは人の判断を鈍らます。軍国主義時代の日本が最たる例でしょう。赤信号を皆で渡り、多くの犠牲を生んでしまいました。
マニュアル通りに動く事は既に人間の仕事ではなくなりつつあります。RPAで少しずつ代替されていくでしょう。今の時代に問われる能力は問題解決能力であり、その為の判断力です。では何を軸に判断するのでしょうか。その1つはレバレッジでしょう。つまり最小努力や最小リスクでいかに最大効果を得ることができるか、です。
いつの時代も転職の応募にはコミュニケーション能力が掲載されています。そこには、問題解決のために自走できる人間を採用したい、という採用側の意図が見て取れます。
マニュアル通りに動く理由
なぜ人はマニュアル通りに働きたがるのでしょうか。
企業文化
終身雇用、年功序列.....組織によっては、その性格はまだ根強いのではないでしょうか。それは人月商売の多重下請け構造をみても分かります。そのピラミッド構造が、トップダウンのトレンドを強め、服従要素の強い企業文化を生み、マニュアル通りの仕事を強いります。その結果、横の連携は薄まり、下からのボトムアップ提案は期待できなくなります。
2015年、ラグビーの日本代表は、強豪の南アフリカに勝利する歴史的快挙を成し遂げました。当時の監督のジョーンズ氏は、就任当初の印象をこう吐露しています。「精神性や伝統を重んじて科学的な発想が不足している」「上意下達の命令形で、指導者に何か言われれば『はい』と従順に答えるが実は分かっていない」。日本人の弱いところを知り尽くしている彼の発言には説得力があります。
ピッチに立てば監督は助けれくれません。自分の判断で試合を動かすしかありません。そのためにジョーンズ氏は、選手自身で考えること、選手同士で戦略を立てること、つまり自立を促しました。そして、歴史的快挙という結果につながります。
仕事でも想定外の問題ばかりが発生しますが、都度上司に指示を仰ぐことはできません。自律的に動ける人間が重宝されます。
学校教育
もう一つの原因は学校教育です。つい学校と同じ感覚で仕事をする人を見かけますが、学校は仕事とは逆の性質を持っています。そのため学校と同じ感覚だと仕事は失敗します。
学校のパターン
- 正解をあてる
- 基本はインプット
- 真面目にやれば進級できる
- 先生の言う通りにすると概ね問題ない
- 試験では想定内の問題が出てくる
仕事のパターン
- 正解を導くためのプロセスを構築する
- 基本はアウトプット
- 真面目にやっても出世しない
- 上司の言う通りにすると大抵痛い目をみる
- 仕事では想定外の事態が発生する
指示通りに動く癖をつけてしまうと、不測の事態が発生したときに、どうしていいか分からなくなります。時にマニュアルも必要ですが、優れたマニュアルとは小手先の手順ではなく不測の事態に対応できる、判断の一助であるべきです。
マニュアル人間にならない為の施策
マニュアル人間から脱却するためにはどうしたら良いでしょうか。組織から何かをしてもらうのではなく、いい意味で組織を見限り、利用して自分力を養う事です。ひいては、それが成果として組織に還元されます。例え転職することになっても、その能力や実績は貴方自身についてきます。
自分に投資する
いつでも転職できるよう自分に投資しましょう。例えば、セミナーやワークショップ、資格取得などです。できれば会社を説得し補助してもらいましょう。
アウトプットの場所や手段を得る
何でもいいので自由に発言したり発信できる場所や手段を得ましょう。最近ではワークショップやコミュニティが充実しています。ブログなどセルフメディアの方法もあります。
人は間違いを恐れ発言を遠慮する傾向があります。しかし誰も最初から正解は分かりません。最も大事な点は、複数人で議論を深める事です。なぜなら複数の頭が無駄なく動いていれば、それだけ漏れやダブりを減らすことができるからです。そのためには発言慣れする事です。
ホスティングサーバを提供するファストサーバという企業がありますが、2012年頃に顧客のデータを消失してしまうという大きな事故を起こしました。そのインタビュー記事の一部を抜粋します。
当社はもともとトップダウンの文化が強く、また属人的な業務が中心であったことからわかるように、業務を透明化するという意識に欠けていました。そこで、基本的なコミュニケーションを学ぶセミナーやインタビューから始め、ワークショップなどのディスカッションの場を多く設けるようにして、とにかく会話できる環境を整えました。
当初こそ、ぎこちなかったものの、スタッフ全員が「何とかしなければ」という意識を強く持って取り組みへ参加してくれました。徐々に慣れてきて、現在では専門分野の異なるスタッフどうしが積極的に話し合い、協力し合う場面が増えています。さまざまな防止策の中で、最も効果的な施策だったと言っても過言ではないでしょう。
出典:https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/interview/696915.html
この例をみてもわかるよう、会話できる環境を整え、社員同士という横の活性化を図ることが、業務改善の大きな推進力となります。
まとめ
マニュアル通りに動くとは、人生の生き方を他者に委ねている事と同義です。人生の大半はおそらく働いています。会社の言う通りに働き、失職し、仕事の潰しがきかない人もいます。組織に依存せず、自分力を高める生き方をしていきたいものです。また何よりも後悔のない生き方をすることが大切かと思います。
業務改善で失敗しないためのフレームワーク思考
こんにちは、Taikiです。
業務を改善するときに思いつくのが、ITサービスの活用です。そして、そのITサービスマネジメントのベストプラクティスが、ITILとよばれる世界共通のフレームワークです。
ITILはITサービスマネジメントを実現するため、ITサービスの品質向上、中長期的なコストの削減などを目的として実在する企業、サプライヤ、コンサルタントなどからITサービスに関する実際の運営方式やノウハウを収集し、書籍化したもの。
出典:Wikipedia
このITILを実践し効果を発揮すれば、例えば、こんないい事があります。
- 課題が体系化されているため、漏れを防げる
- 実行プロセスの段階が分かるため、手戻りを防げる
- 責任や役割を明確にできるため、後々のトラブルを防げる
- サービスの結果を測定し継続的に改善できるため、ニーズの変化に対応しやすい
しかし、この優れたベストプラクティスにも難点があります。それは分かりにくさです。
- 実例で説明されていないため、言いたい事が分からない
- 似たような表現が多いため分かりにくい(変更管理、変更提案、変更要求など)
- オリジナルは英国のため、翻訳に限界がある
この分かりにくさを我慢して勉強すると、ロジックではなく記憶に頼った学習になるため、現場で応用が利きません。本来フレームワークとは、異なる場面でもそのノウハウを再利用できるものです。良い部品を再利用すれば短い時間で品質の良いモノが仕上がります。同じように、このITILのノウハウを効果的に応用できるよう、実用性重視で解説することが本記事の狙いです。
しかし、労力の関係上、ここでは上流プロセスであるサービスストラテジーとサービスデザインのみを取り上げ、その上位概念の意図を汲み取ることに留めます。残りの3プロセスと具体的なハウツーについては、ITILの参考書をお読みください。
業務改善するときには幾つかステップがあります。ITILはこちらの5つを基本プロセスとしています。
各プロセスの狙いは何でしょうか。
サービスストラテジー
業務を改善するときに、最も大事な点は何でしょうか。
それは投資以上の成果を出すことです。そのために戦略を策定します。それがサービスストラテジーの狙いです。そのサービスストラテジーを成功させる要因は、大きく4つあります。
- 事業関係管理
- 需要管理
- サービスポートフォリオ管理
- 財務管理
上の言葉を聞いて、戦略にどう結び付くか、連想できますか。。これがITILの分かりにくさです。しかし、これに質問を付与すると少しわかりやすくなります。
- 事業関係管理 ⇒ 顧客のニーズは何か?
- 需要管理 ⇒ どのくらいの需要があるか?
- サービスポートフォリオ管理 ⇒ どのくらいのリソースが必要か?
- 財務管理 ⇒ 予算はいくら必要か?
顧客のニーズは何か?(事業関係管理)
絶えず変わり続ける顧客のニーズを的確に捉え、サービスを提供することは困難です。
この変わり続ける顧客ニーズの変化に応えるコツが、顧客と良好な関係を構築することです。そのためにどうするか、それは顧客の数だけ答えがあります。リスポンスの速さを見るところもあれば、対応の丁寧さを見るところもあるでしょう。
例えば、営業担当者を変えてみると顧客から違うリクエストが出てくる事もあります。聞き手の視点が変わると話し手のアウトプットも変化し、思ってもいなかったニーズが見えてくることがあります。人対人は定性的な要素が多分にあるため、顧客との関係作りは人の相性も大きく関係します。
どのくらいの需要があるか?(需要管理)
顧客のニーズを掴んだ後は、そのサービスの需要がどれ程あるかを測定します。それが需要管理です。需要を測定する狙いは、投入するリソース(ヒト・モノ・カネ)の量を見極めるためです。その需要を測定するコツは、顧客の事業パターンを把握することにあります。例えば、夏場にビールやアイスが売れ、冬にケーキが売れるようなものです。
どのくらいのリソースが必要か?(サービスポートフォリオ管理)
需要を測定できたら、必要なリソースの投入量を決めます。但し、特定のサービスに人員や設備を過度に使うと、別のサービスレベルが低下します。そうならないために、サービスの棚卸を行う段階がサービスポートフォリオ管理です。リソースは有限です。優先度やサービスの特性に応じて投入するリソースの量を決めます。
棚卸を行う1つ目の狙いはリソース投入の優先順位を決めることですが、2つ目の狙いは、新しいサービスを既存の資源で賄えるかを見極める事です。これができるとコスパが飛躍的に向上します。
3つ目の狙いは、業務プロセスの棚卸を行うことです。データを移行するときは、データを整理します。例えば、クラウドにデータを移行する前も、整理してスリム化できればそれだけ運用コストを削減できます。業務を自動化したいときもプロセスを簡素化することで、より短いソースコードで実装することができます。
予算はいくら必要か?(予算管理)
投入するリソースの量がきまると、その予算を見積もることができます。戦略策定の目的は、投資以上の成果を出すことです。それを考慮し予算の編成を行います。
サービスデザイン
戦略を策定した後は、その戦略通りに業務を改善できるよう業務設計します。そのためには限られた予算で業務を改善するためにサービスとコストのバランスを決めます。そのバランスを調整するプロセスがサービスデザインです。そのサービスデザインの成功要因は大きく8つあります。
- サービスレベル管理 ⇒ サービスの手厚さと責任分界点は?
- 可用性管理 ⇒ サービスの利用時間帯は?
- キャパシティ管理 ⇒ どの程度のキャパが必要か?
- サービス継続性管理 ⇒ 有事の際の復旧リミットは?
- 情報セキュリティ管理 ⇒ 機密情報や秘匿情報の取り扱いルールは?
- サプイライヤ管理 ⇒ どこにどの業務を任せるか?
- サービスカタログ管理 ⇒ サービスの存在を知ってもらえているか?
- デザインコーディネーション ⇒ 誰が全体の責任をもつか?
サービスの品質と責任分界点は?(サービスレベル管理)
サービスレベル管理は、顧客とサービスの手厚さを決める段階です。取り扱うサービスの種類、サービスを受ける対象者、対応時間などを決めます。ここまでをサービス提供者が行い、ここからは顧客が行うなどと責任分界点を決めますが、こういった取り決めをSLAと言います。
サービス水準合意 (Service Level Agreement, SLA) とは、サービスの提供者とその利用者の間で結ばれるサービス水準に関する合意である。 サービスレベル契約と言われることもある。通信サービスやコンピュータ・アプリケーション・サービスなどで、サービスの定義、内容、範囲、品質、達成目標、稼働率などを記述する。具体的な数値として平均故障間隔(MTBF)、平均修復時間(MTTR)などを利用する。
出典:Wikipedia
SLAを設定する理由は2つあります。予算を越えない事と後で揉めないためです。
SLAを決めずにサービスを提供すると、顧客から「これもやってくれない?」とリクエストを追加されます。SLAがないからと何でも安請負してしまうと、金額は変わらないのに作業時間ばかりが増え、予算を圧迫します。
逆にSLAを決めていないからと、リクエストを突っぱねると顧客の不満は増幅し、次の契約更改で仕事がなくなる可能性もあります。
こういった事態を避けるために業務を設計するときはSLAを決めます。
サービスの利用時間帯は?(可用性管理)
先で決めたSLAを達成するために、まずサービスの提供時間を決めます。
可用性管理の説明はこちらです。
可用性(Availability)とは、システムを障害(機器やパーツの故障・災害・アクシデントなど)で停止させることなく稼働し続けること、またはその指標のことをいいます。
長い時間、システムを稼働し続けられることを高可用性(High Availability)ともいいます。
サービスの提供時間を決める理由は、高いコスパでサービスレベルを達成するためです。24時間365日、システムを無停止で維持することは不可能です。そうでなくても、高可用性を維持するにはコストがかかります。
ビジネスの活動時間を把握し、サービスの提供時間を必要最小限に絞ることができれば、それだけ可用性を維持しやすくなります。逆に壊れた時のビジネスインパクトが大きいポイントにホットスタンバイを設けるなどのコストを惜しんではいけません。
どの程度のキャパが必要か?(キャパシティ管理)
ここでは可用性を維持するためのキャパシティを決めます。キャパシティとは、作業員やデバイスの数、ネットワークの帯域やストレージ容量を指します。
キャパシティ管理の狙いは、安定性とコストのバランスを保つ事です。安定稼働を考えるあまり、過剰投資でオーパースペックでになったり、コストを意識し過ぎてスペック不足になることを避けます。
キャパシティ管理の精度を上げるためには、需要管理もさることながら、拡張性や柔軟性を持たせることです。例えば、オンプレにサーバーを購入する場合、スペックの変更に限界があるため、、需要変化に十分に対応できません。しかし、レンタルサーバーにしたりクラウドにすると需要に応じてサーバーの増強や縮小も柔軟にできます。
有事の際の復旧リミットは?(サービス継続性管理)
通常の運用だけでなく不測の事態も考慮にいれた設計が必要です。すなわち災害など有事の際にいつまでにどのサービスをどの水準まで復旧させるかを決めることです。それがサービス継続性管理です。
なぜ滅多に起こらないことのために復旧時間や復旧レベルを緻密に決めないといけないのでしょうか。それはデータの消失や復旧時間の遅延がビジネスにとって致命傷になるからです。例えば、顧客があるベンダーにデータを預けた時に最も心配する事は、預けたデータの漏えいや紛失です。もしこれが発生すると社会的な信用が失墜し市場から退場することもありえます。それを担保する行為がSLAです。そして、そのSLAで合意した条件を満たすために、サービス継続性管理で復旧時間や復旧レベルを決めます。
よく考えると、サービス継続性管理は保険と似た性格をもっています。保険はリスクの頻度やインパクトに応じて保険料が高くなります。同じように重要なデータやシステムには相応の投資が必要です。しかし、全てにお金をかける必要はありません。例えば、プリンタが故障して業務が完全にストップすることは考えにくいでしょう。継続性管理の目的は、あくまで高い費用対効果でビジネスインパクトを最小限に留めることです。
機密情報や秘匿情報の取り扱いルールは?(情報セキュリティ管理)
機密性や秘匿性の高い情報には、誰にアクセス権を付与するか、誰がアクセス権を付与するか、など情報セキュリティ方針を確立する必要があります。この情報セキュリティ方針は、社会のデファクトスタンダードとなっておいます。今や情報サービスを取り扱う企業はISMSやプライベートマークなどを取得していないと後ろめたさを感じる時代です。
では情報セキュリティ管理の狙いは何でしょうか。情報の3原則とはCIA(完全性と機密性、可用性)です。すなわちセキュリティとコスト、使い勝手のバランスを取ることです。セキュリティをガチガチにし過ぎると生産性の足かせとなり、緩すぎると深刻な事故を招きます。そのバランス感覚が重要になります。
情報セキュリティは、JIS Q 27002(すなわちISO/IEC 27002)によって、情報の機密性、完全性、可用性を維持することと定義されている[1]。それら三つの性質の意味は次のとおりである[2]。
・機密性 (confidentiality): 情報へのアクセスを認められた者だけが、その情報にアクセスできる状態を確保すること
・完全性 (integrity): 情報が破壊、改ざん又は消去されていない状態を確保すること
・可用性 (availability): 情報へのアクセスを認められた者が、必要時に中断することなく、情報及び関連資産にアクセスできる状態を確保すること出典:Wikipedia
どこにどの業務を任せるか(サプライヤ管理)
SLAや可用性、キャパシティに継続性、これまで取り上げた成功要因を実現するための選択肢が幾つかあります。外部にアウトソースするか、内製化か、またはその両方を取るかです。これを決める段階がサプライヤ管理です。費用対効果を考え、事業のニーズに応えるために、どう提供するかを決めます。思いつく両者の良し悪しを表にしてみましたので、ご参考ください。
サービスの存在を知ってもらえているか?(サービスカタログ管理)
どれだけサービスを充実させても、その存在が利用者に周知されていなければ意味がありません。提供中のサービスや今後導入するサービスを利用者に公開する段階がサービスカタログ管理です。
サービスカタログ管理の狙いは、そのサービスの存在を知ってもらう事に加え、SLAに基づいてサービスレベルを宣言する事です。例えば、サービスの対象者や提供時間、その担当が外注先の場合は問い合わせ先も明記しておくと、ユーザー全体に対して役割と責任の線引きができます。その結果、本来の業務範囲に労力や時間を集中しやすくなります。
誰が全体の責任をもつか?(デザインコーディネーション)
これまでの成功要因を実現するためには、部署間やサービス間で調整を行い、その成果に責任をもつプロセスが必要です。これがデザインコーディネーションです。
1つのサービスを変更することで複数のサービスに影響を与えたり、業務を1つ変えることで他部門の業務に支障を及ぼす事もあります。従って、デザインコーディネーションの責任者は、全体を俯瞰してプロセスやリソースを調整し、効果的に業務設計できる能力が求められます。そのため、その責任者として、調整能力の高い管理職を任命するケースが多いでしょう。
まとめ
フレームワークを業務に活用するときは、フレームワークの方法論よりも、その取り組みの意図や目的を理解することが遥かに重要です。場面や活動によって、定型化されたハウツーは便利なときも不便なときもあります。また方法論に拘ると手段が目的化してしまいます。
この記事では、上流プロセスが持つ上位概念の狙いを強調して説明しました。組織が悩む課題は概ね共通しています。業務改善で失敗ないコツは、ITILを通して課題の抜け漏れを防ぎ、自社の方針や環境に即した対策を立てることです。