【応用編】自己資本比率と収益性が必ずしも連動しない理由
こんにちは、Taikiです。
前回は、決算書を読み解くために抑えるべきポイントを紹介しました。
今回は、自己資本比率が収益性と必ずしも連動しない理由に迫ります。企業の特性や財務体質を理解する上で大事な視点かなと思いましたので、ぜひご覧ください。
あくまで個人の見解ですので、ご承知おきください。
目次はこちらになります。
ある業種の自己資本比率が高い理由
前回の記事で、自己資本比率の定義をこう設定しました。
自己資本比率:返済不要なおカネの比率
では自己資本比率の高い業種とは何でしょうか。
業種の平均をみると、医薬品、鉱業、情報・通信、精密機器、化学などが高めです。特に自己資本比率の高いアンジェスという医薬品会社をみてみましょう。同社の業績を見ると、赤字が続きキャッシュフローをみても典型的な業績不振型です。
こちらは同社の損益計算書となります。
出典:https://www.anges.co.jp/ir/ir_library/_pdf/earning18_4q_i4pb.pdf
にも関わらず、なぜ同社は自己資本比率が高いのでしょうか。その理由は、新株発行予約で資金調達を行い、自己資本が潤沢にあるからです。株主からの資金が集まれば自ずと自己資本比率が上昇します。
では、業績不振な企業になぜ投資家が集まるのでしょうか。アンジェスは、次世代の医療として注目を集める遺伝子治療薬の研究開発を専門しています。医療は景気に左右されず長期的に安定を見込める市場です。そして、国内では少子高齢化、新興国でも経済の発展に伴い医療市場が拡大しています。新薬が発表されれば、国内だけでなく海外にも水平展開が期待され、そのロイヤルティ収入は莫大なものとなり、株価にも影響します。投資家はそれを期待しています。
加えて、アンジェスは主力のHGF遺伝子治療薬が、厚労省に条件付きで承認されました。もし正式に承認されれば国内で初の遺伝子治療になります。そして、HGF遺伝子治療薬とは、三大生活習慣病である糖尿病の治療にも効果が期待されています。
一方で、株主資本に頼らなくても、そもそも負債が少なければ、自己資本比率は高くなります。最近では、キーエンスやローム、村田製作所など特定の分野で高いシェアを持つ企業が上位に並びます。
株主から圧倒的な支持を得る企業、自力でキャッシュを稼ぐ企業、どちらも自社の強みを軸に自己資本比率を高めていることが分かります。
ある業種の自己資本比率が低い理由
では逆に自己資本比率の低い企業を見てましょう。銀行、電気・ガス、海運、保険などがあります。例えば、銀行はなぜ自己資本比率が低いのでしょうか。 銀行の企業活動をまとめてみると理解しやすいと思います。
- 資金調達:顧客に預金してもらう
- 投資活動:預貯金を原資にして融資する
- 営業活動:融資から金利を得る
銀行の投資活動には巨額の原資が必要です。その原資は顧客の預貯金であり、預貯金は銀行にとって負債となるため、預貯金が多いと自己資本比率が下がります。
バブルが崩壊し、北海道拓殖銀行や山一証券が破たんした結果、銀行業に必要な自己資本比率の基準が更に厳しくなり、貸し渋りが目立つようになりました。少し話は逸れますが、日本が貸し渋りの時代にアメリカではIT革命がおき、日米間で設備投資やイノベーションの差が生まれ、GAFA(Google, Apple, Facebook、Amazon)のような巨大IT企業が育つ下地ができたとも言われます。
さて、以前よりも融資が難しくなった銀行は、どういう行動を取るのでしょうか。例えばこんな行動を取るのではないでしょうか。
- 冒険しない:巨額の融資を控え、信用度の低い企業には貸し渋る
- 投資してもらう:預金ではなく投資商品にお金を使ってもらう
上記1の「冒険しない」の反面、企業間の出資が活発になりました。例えば、ソフトバンクは、ハイリスクなベンチャー企業やスタートアップ企業に積極投資を続けています。
そして、ソフトバンクの孫氏が、まだスタッフ10人、利益0の会社に20億円を出資しIPOで5兆円に大化けしたという例もありますが、それが中国EC大手のアリババだったことはあまりにも有名です。
上記2の理由はシンプルです。投資は融資ほど与信調査が不要で利益率も高いからです。三菱UFJフィナンシャル・グループ社の損益計算書をみると、役務取引等収益が貸出金利息の次に大きいため、銀行の大きな収入源になっていることが分かります。銀行の方が投資商品を勧めてくる理由もここにあるのではないでしょうか。
出典:https://www.mufg.jp/dam/ir/fs/2018/pdf/summary1812_ja.pdf
まとめ
話をまとめると、自己資本比率の決定要因として、大きく2つのパターンがあることがわかりました。
上記1は、先述したバイオ医薬品や銀行などがその例です。2は、自社の強みと特定分野で高いシェアをもつ企業、又はどこかの振袖レンタル会社のように債務超過のため突然仕事を放棄する企業などです。
自己資本比率が収益と必ずしも連動しない理由は、上記1のような企業が該当します。そして、自己資本比率をみると、銀行、電気・ガス、保険など社会にとって必要不可欠なサービスは、自転車操業にも似た、他人資本を回転させて事業が成り立っていることも垣間見えるのではないでしょうか。