Windows10からみるMicrosoftの戦略と今後のシナリオ

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こんにちは、Taikiです。

Windows7のサポート期限が迫り、Windows10への移行が加速しています。

Windows10リリースの狙いは何でしょうか。そもそも、Windowsの強みとは何でしょうか。課題を抱えつつも、なぜWindowsの国内シェアは伸びているのしょうか。そして、機能アップデートの影響を最小化するためには、どうすればいいでしょうか?

今回はこの疑問に迫ります。

Windows10リリースの狙い

Windows10は、WaaS(ワース)という概念のもとでリリースされました。WaaSとは、OSのアップグレードを新しい「製品」として届けるのではなく、定期的に実施・継続されるサービスとして提供するという新しい概念です。 従来は新たな機能を組み込んだOSを開発し、Windows 7Windows 8.1といった独立した製品を発売していましたが、Windows 10から、機能向上プログラム(以下FU)や品質向上プログラム(以下QU)によって、定期的に更新を重ねていく方式となります。

なぜMicrosoftはWaaSという方式を取ったのでしょうか?その理由は、これまでの製品提供のサイクルでは、多様で急速なニーズの変化に対応できないからです。

こちらのグラフをみると、パソコンだけでなく、スマートフォンタブレットの利用も拡大しています。Microsoftは、どのデバイスであっても、包括的かつスピーディーに機能を向上できるよう、ユニバーサルWindowsプラットフォームと呼ばれる共通OS基盤を開発し、WaaSという方式でサービスを提供することを決めました。

出典:総務省「通信利用動向調査」

Windowsの強み

そもそも、なぜ大半のOSはWindowsなのでしょうか。その理由を探るため、Windowsの歴史に少し触れましょう。

Windowsの歴史

1980年頃、MicrosoftMS-DOSとよばれるOSを開発しました。かつてMicrosoftは、MS-DOS上で稼働するGUIのアプリケーションで、IBMへのOEM供給を生業とした、下請けのソフトウェアメーカーでした。Microsoft業界標準の地位を得ることになったきっかけは、Windows 3.1というOSです。このOSの強みは、各社のアーキテクチャの相違を吸収できたことです。ソフトウェアがアーキテクチャに依存することがなくなったため、PCの利便性が飛躍的に向上し、アーキテクチャの独自性も薄れ、PCの価格が安くなりました。業界標準となったWindows3.1は爆発的に売れ、その後、高可用性やセキュリティを向上させながらWindowsシリーズは拡大していくことになります。

当然のことながら、仕事の生産性を高めるために、Windows向けの純正や他社製の製品開発も活発に行われ、ビジネスとWindowsは深い関係をもつことになりました。その結果、社内の基幹システムはWindowsへの依存度が強くなり、OS市場で優位性を保つことになります。

しかし、その優位性を脅かす存在がLinuxです。Windowsが大企業などエンタープライズ向けに注力する一方、Linuxは小規模やスタートアップを攻めました。そして、スタートアップのような資本が少なく発想豊かな企業は、オープンソースであるLinuxを駆使し、自由度の高いクラウドというプラットフォームを手に入れ、柔軟にアプリケーションを開発できるようになりました。次第に、規模を問わず多くの組織でLinuxは採用されるようになります。そのLinuxの台頭を尻目に、Microsoftはある手を打ちました。Githubの買収です。

Github買収の狙い

Githubというのは、Gitと呼ばれるソースのバージョン管理ツールを用いた、OSSの共有開発プラットフォームです。あのGAFAも、米政府もこのプラットフォームを使ってオープンソースを開発しています。

では、具体的にGithubはどう使われているのでしょうか。Githubでは「リポジトリ」と呼ばれるプロジェクトが作成され、その中でソースが公開されます。その「リポジトリ」を分家にして自由にカスタマイズできる機能が「フォーク」と呼ばれます。また、この改良を本家に提案することを「プルリクエスト」と呼びます。

例えば、Appleが公開したSwiftのソースを、GitHubにいる開発者がフォークして、もっと使いやすいアプリケーションにしました。その開発者はプルリクエストでAppleにこれを提案し、採用されれば本製品に組み込まれ、自社の製品価値を高めるような使い方ができます。開発者にとってもGitHubでの開発実績は経歴に拍がつき、今後の進路を有利なものにしてくれます。

MicrosoftGitHub買収の狙いは2つあると思います。1つ目は、GitHubが抱える開発者に自社の製品改良を提案してもらう機会を増やし、製品価値を高めることです。2つ目は、Microsoftが2016年に買収したLinkedin (ビジネス特化型SNS)と連携し、人材開発の分野を強化していくことです。

Windows10が課題を抱えながらもシェアを伸ばせる理由

では、話をWindows10に戻しましょう。Windows10の課題は何でしょうか。

それは、アップデートの種類と回数が増えたため、ユーザーの負担が大きくなった事とFU(Feature Update = 機能更新プログラム)が引き起こす不具合です。先述したように、アップデートの種類には、QU(Quality Update = 品質更新アップデート)、FU(Feature Update = 機能更新プログラム)があります。前者は、毎月第 2 火曜日に公開され、後者は、毎年3月と9月に公開されます。

特に、このFUが問題で、アップデート後に予想外の不具合が出たりします。

 「dynabook スマートフォンリンク」は、Dynabook社製PC向けに提供されているアプリ。PCをスマートフォンのスピーカー・キーボード・マウスとして利用できるようにする。

 このアプリを導入したデバイスを「May 2019 Update」へアップグレードすると、一部の環境でアプリが機能しなくなる。通話メニューで電話番号を表示できなくなったり、PCから電話に応答する機能が利用できなくなる恐れがある

 Intel製ディスプレイドライバーの一部は「May 2019 Update」との互換性に問題を抱えており、ユーザーインターフェイスでディスプレイの明るさ(輝度)を調整できたようにみえても、実際に適用されないことがある。

出典:https://forest.watch.impress.co.jp/docs/serial/yajiuma/1187555.html

しかし、ここで1つの疑問が浮かびます。こういった課題を抱えながらも、なぜWindowsOSの国内シェアは伸びているのでしょうか。その理由を3つにまとめてみました。

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 出典:https://news.mynavi.jp/article/20190204-766848/

Microsoftスケールメリット

1つ目の理由が、Microsotfの資本力や事業規模がもたらすスケールメリットです。各所からFUの不具合情報が多数報告されますが、MSは、そのスケールメリットを背景に次々と修正パッチを配信し、問題を解消させています。優秀なエンジニアが多いこともスケールメリットの1つといえます。このスケールメリットおかげで、ユーザーも不満を抱きつつ、どこかで安心感を持っているのではないでしょうか。

各社ベンダーの対応

Windows 10を扱うベンダーは多数います。彼らが売上を拡大するためには、性能やデザインに加え、FUが引き起こす障害について、原因と対策をユーザーに逸早く公開することが求められます。経験曲線の原理と同じように、今後この対応の速度や精度は改善されていくのではないでしょうか。

エンタープライズ向け製品としての強み

エンタープライズ向け製品として進化してきたWindowsは、大量デバイスの管理を得意としています。Windowsには、サービスチャネルやサーバの機能によって、規模や要件に応じてWindows Updateを制御することが可能なため、ユーザーはそのノウハウを拠り所としています。

Windows updateの対応について

ここでは、Windows 10の大きな課題とされている、Windows Update(特にFU)の対応方法について書きます。かくいう私もWindows10の導入担当ですが、Windows Updateについて、包括的かつ体系的に説明しているサイトが少ないため、ここで整理したいと思います。ただWindows updateについては、サービスの名称や期間がよく変わるため、こちらの情報もすぐに老朽化する恐れがあることをご承知おきください。

まずは、アップデート方法ですが、サービスチャネルとサーバによる方法とに大別することができます。

サービスチャネルについて

サービスチャネルとは、サーバを介さず、Microsoft updateサイトから直接FU(Feature Update = 機能更新プログラム)を受け取ることです。種類としては、一般、SAC(Semi-Annual Channel)、LTSC(Long-Time Servicing Channel)の3つがありますが、大きな違いは、FUの配信タイミングです。一般は即時配信され、必然的にFUのパイロットテスター(=人柱)となります。SACは、グループポリシーにより、FUのタイミングを任意に設定でき、最大365日間の延期が可能です。LTSCは、10年間はFUの受け取りを免除することができ、QU(Quality Update = 品質更新アップデート)のみ受け取り可能です。

それでは、このサービスチャネルの意図は何でしょうか。それは、FUによる影響を軽減させることです。一般は、家庭向けのため、FUの即時配信でも影響はないとされています。SACは企業向けのため、ビジネスに影響がないよう、配信までにパイロット期間を最長365日間、設けることができます。LTSCは、キオスクやATM、医療機器などレガシーなシステム維持のために、長期にわたってFUを免除することができます。

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サーバでの制御について

いずれにしてもサービスチャネルは、Microsoft updateサイトから直接FUを受け取ることになるため、アップデート対象PCが大量にあると、インターネットゲートウェイの帯域圧迫につながります。帯域不足を回避するためには、サーバ側でFUを受け取り、サーバから配信する事になりますが、それがWSUSとSCCMの役割になります。

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出典:Windows Server 2012 R2 で WSUS サーバを構築する(1) - yuu26's memo

 WSUSとSCCMは、アップデートの自動化や状態管理を可能としてますが、その細やかさや柔軟性において、SCCMに軍配が上がります。

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企業において、FUを適用するために、どうやってサービスチャネルやサーバを使い分ければよいでしょうか。基本的には、ユーザー数の規模に応じて決めます。

ユーザー数が少ない場合

ユーザー数が少なければ、SACにてFUの配信タイミングを決め、人力で対応します。最初の配信先はリテラシーが高い人や管理者のPCにして、問題なければ順に適用していくと良いでしょう。

ユーザー数がそこそこ多い場合

ユーザー数がそこそこ多いと、SACでの制御が難しくなるため、WSUSを使用します。但し、FUの適用や再起動が制御できない上、結果も一覧にできない等の制限があります。そのため、WSUSに加えて、管理者のマニュアル対応が必要になります。もちろん、社内の統制が取れていれば、FUのアップデート要求を受けた時に、ユーザー自身が最適なタイミングでアップデートし、再起動を完了させ、その結果をフィードバックしてもらえますが、現実的ではないと思います。WSUSは万能ではないため、アップデートの補助機能と捉え、上手に利用すると良いでしょう。

ユーザー数がすごく多い場合

ユーザー数がすごく多いと、WSUS+手動対応では捌くことができません。無理をして人海戦術に頼れば、人件費の方が高くつくでしょう。従って、SCCMと社内調整でなるべくアップデートを自動化させることをお勧めします。SCCMでは、細かい単位でPCをグルーピングしてアップデートができる上、その結果も一覧にでき、条件に応じて自動的にリトライもできます。PC全体で死活監視やリソース管理もできるため、あのPCがダウンしている、このPCのディスク容量が不足しているなどの情報も取れて、柔軟に対応することもできます。

しかし、Windows UpdateのみをSCCMの目的にすることは賢い選択とは言えません。SCCMは、MDMやソフトウェア管理など機能が盛り沢山のため、ライセンスが非常に高くつきます。SCCM利用を検討する場合は、Windows Updateをはじめ、その他の業務もSCCMで一元管理できるよう全体の設計を見直した方が良いでしょう。

そこで、もう一つの選択肢としては、WSUSと他社のサービスを組み合わせる方法があります。使ったことはありませんが、例えば、富士通のLanScopeという製品は、SCCMよりも安いことは勿論のこと、Windows updateに特化して、WSUSの弱点を補うことを主眼としています。

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出典:https://www.fujitsu.com/jp/group/fjm/mikata/column/motex/002.html

まとめ

Microsoftは、Windowsという共通プラットフォームを確立し、OS市場にて君臨しました。ニーズの多様化と急速な変化に対応できるよう、Windows10をWaaSという位置づけでリリースしました。Windows Updateなどまだまだ課題はありますが、国内シェアの推移をみると、市場の信頼を取り戻しつつあることが伺えます。

今後、Windowsが更に進化を遂げるためには、買収したGitHubを使って自社の製品価値を高めることが求められます。その進化に伴い、Windows10の展開や運用も更に楽になることを期待しています。