令和元年度秋季の高度情報処理技術者試験から窺える日本の課題
こんにちは、Taikiです。
試験では旬なテクノロジーに関わる問題が幾つか出題されましたが、今回は特に気になった問題を取り上げ、出題したIPA(経産省管轄の独立行政法人)の意図を考えてみようかと思います。対象は午前Iです。
情報処理技術者試験(じょうほうしょりぎじゅつしゃしけん)は、情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)の規定に基づき、経済産業大臣が実施する情報処理に関する業務を行う者の技術の向上に資するため、情報処理に関して必要な知識及び技能を問う、日本の国家試験である。
出典:Wikipedia
目次はこちらです。
機械学習について
Q. AIの機械学習における教師なし学習で用いられる手法として、最も適切なものはどれか。
A. データ同士の類似度を定義し、その定義した類似度に従って似たもの同士は同じグループに入るようにデータをグループ化するクラスタリング
出題の理由に触れる前に少し説明します。
AIの機械学習には、「教師あり学習」と「教師なし学習」があります。「教師あり学習」は正解を機械に学習させるパターンです。例えば、花の画像に「桜」など名称のラベルを付けて学習させれば花図鑑のAIが作れますね。
先の問題にある「教師なし学習」とは逆に正解がないパターンです。例えば良く分からない物体を目にすると人間は何を考えるでしょうか。その形や色、特徴を捉えて脳内の整理棚で分類分けを始めます。「クラスタリング」もほぼ同じ考えで、多くのデータから類似性をみつけ似たもの同士をグループ化します。
IPAがこれを出題した理由は、恐らく色々な分野で使える成長著しい技術だからです。
例えばECサイトに誘導する方法としてレコメンド機能があります。利用者の好みにあった物品やサービスを推薦する機能ですが、これもクラスタリングが使われています。
確か検索トップページにオススメ記事を並べるGoogle Discoverもレコメンド機能だと思います。ここに掲載される記事はバズりやすいのでGoogle砲とも呼ばれていますが。
防災の分野においては、音や振動などのセンサー情報を集めてグループ化し、橋やトンネル、道路などの状態を検知する予知保全にもクラスタリングの技術は適しています。昨今の災害で交通インフラに大きな打撃を与えているため、この分野は特に注目されるでしょう。
RPAについて
Q. RPA(Robotic Proccess AutoMation)の説明はどれか
A. ホワイトカラーの単純な関節作業を、ルールエンジンや認知技術などを活用して代行する
まずはルールエンジンの説明を抜粋します。
ルールエンジンは、業務知識をルールベースとして蓄積することで、高度な意思決定の自動化を実現するシステムです。人が持つ知識をシステムに組み込むことで、知識の運用と活用をサポートします。
RPAはデスクワークのルーチンを自動化するもので、工場に使われるハードウェアロボットとは違います。これを出題した理由は、「自動化・省人化」というテーマが政府主導の働き方改革の一環だからです。その背景は少子高齢化と労働人口の減少でしょう。年代別の人口推移を見ると、赤色(15-64歳人口)は相対的に減少の一途です。
出典:総務省
RPAは膨大なデータが飛び交う金融業界、契約プランや料金体系が複雑な保険業界を中心に導入が進み、数千時間の工数削減や数十人の省人化に成功した例もあります。
しかしRPAといえど人の子、導入するだけでは効果がありません。その活用のために勉強会を開き、業務分析を重ね、業務プロセスの可視化やシナリオ作成を行う等、時間をかけてRPAを育て上げた組織だけがその恩恵を預かれます。
エネルギーハーベスティングについて
Q. エネルギーハーベスティングの適用例として、適切なものはどれか。
A. スイッチを押す力を電力に変換して作業するRFリモコン
エネルギーハーベスティングの説明を抜粋します。
環境発電(エネルギーハーベス)は、電池やケーブル等による電力供給を必要とせずに機器等を駆動させる技術であり、エネルギーの効率的な利用が叫ばれる中、今日、注目度が高まってきているものです。なぜ電源が要らないかというと、身の回りにある光や熱、振動、電波のエネルギーを電気エネルギーに変換するからです。利用できるエネルギーとしては、例えば、室内の照明光、工場の廃熱、私たちの体温、道路の振動、携帯電話の基地局から発せられる電波等、様々です。こうしたエネルギーを回収することを「収穫」に例えて、エネルギーハーベストとも呼んでいます。
出典:富士通総研
つまり、エネルギーハーベスティングとは、自給自足の究極な省エネ法です。
IPAがこの問題を出題した理由は、ヘルスモニタリング事業に大きな可能性を感じているからです。例えば、橋や道路の異常を検知するセンサー、自動車のタイヤの空気圧を調べるセンサー、畑の土壌の気温や湿度、肥料の量等をモニタリングするセンサー、いずれも電源の引き込みが難しいですよね。しかし、振動や太陽光、内外の温度差で自己発電できればこの問題は解決します。
昨今注目されるIoTの推進には、先のAIとこのエネルギーハーベスティングの技術が必要です。プラットフォームサービスの分野で遅れを取っている日本はハードウェアの分野で挽回するしかないと思っていますが、その代表例がIoTであり、その前提がAIとエネルギーハーベスティングです。
まとめ
機械学習、RPA、環境発電、出題された問題を貫く1つのテーマは、日本経済の持続的成長ではないでしょうか。どれも日本に残された数少ない挽回の切り札です。
試験後、問題を見直し答え合わせをしましたが残念な結果になりそうです。。来年もチャレンジし、また面白そうなトピックがあれば発信します。
IoT関連ではこの本が特に読みやすいと思いましたのでご参考までに。