迷惑な買い占めはなぜ防止できないのか

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新型コロナウィルスの影響で、マスクやティッシュペーパー、トイレットペーパー、子ども用オムツの品切れが続出しました。

迷惑な買い占めはなぜ防止できないのでしょうか。今回はこの点に迫ります。

制御不能な集団心理

私なりの視点は、「日本政府は適切な対応が遅かった」という一言に尽きます。

一度火が付いた消費者心理は制御が不能なため、そうなる前に、政府が法律や制度を設けるしかありません。

こちらは3.11の東日本大震災のときに、買いだめに走った理由をアンケートにしたグラフになります。

 

出典:買いだめ行動のきっかけ(出典:クロス・マーケティング、リサーチ・アンド・ディベロプメント

このグラフを見ると、商品が不足している情報を見たり聞いたりした不安や備えから、買い占めに走ったことが見て取れます。商品の不足は、中国人や転売屋の買い占めが原因とされていますが、正確には、その情報がTwitterツイッター)等で拡散され、一部の消費者が必要以上に買い込んでしまった事です。

なぜ必要以上に人は買い占めるのか。

経済学にあるゲーム理論からすれば、買い占めない人より、買い占める人の方がメリットが大きいという説があります。「買い占める」という行動を選択すれば、「買い占めない」という行動を取る人に比べ、購入量の差はあるものの、商品を手に入れる可能性が高くなるからです。

 

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東日本大震災や石油危機(オイルショック)、新型コロナウィルスで起こった迷惑な買い占めを見ると、過去の歴史が物語っています。

一度火が付いた集団心理を収束させることは難しい。

性善説性悪説かの議論ではなく、災害時のような事態に直面した時、日本人のみならず人間は、防衛本能として、買い占めに動いてしまうのです。これを民間レベルで制御することはできません。

だからこそ、買い占めの事態が悪化する前に、政府の適切かつ迅速な対応が不可欠になります。では適切な対応とは何でしょうか。

各国の水際対策

適切な対応とは、十分な水際対策です。国内へのウィルスの侵入をいかに防ぐかにあります。

ITのプロジェクト管理において、「V字モデル」という考え方があります。工程が進むに比例して、バグの発生時における手戻りコストが増えていくというものです。言い換えれば、最初の段階で、対策できていれば、それだけ費用対効果が高いと言えます。

「V字モデル」を図式化してみましたので、ご参考ください。

 

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日本政府は、新型コロナウィルスの拡大防止に向け、2月から入国拒否を始めましたが、「湖北省に滞在していた外国人」と限定的でした。結果からすると、その水際対策は不十分でした。一方で、米国などは中国全土からの入国拒否を断行しています。

日本政府は新型コロナウイルスによる肺炎の拡大防止に向け、2月1日から湖北省に滞在していた外国人らの入国拒否を始めた。米国やシンガポール、オーストラリアなどが中国全土からの入国を拒否しているのに比べると対象は狭い。政府は感染者が湖北省に集中しているのに加え、過度な入国制限は日本経済への影響が大きいとみるためだ。

出典:2020年2月8日 日本経済新聞

また3月5日、日本政府は中国からの入国者について、2週間待機させる発表をしましたが、同じ対策を台湾政府は、約1ヵ月前に表明しています。

新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大の懸念が広がる中、外交部(日本の外務省に相当)は台湾に渡航する外国人について、中国滞在から2週間以内は入国を認めない方針を決めた。

出典:2020年2月5日 TAIWAN TODAY

この2つの対応を見ても「日本政府は適切な対応が遅かった」という印象を受けます。

マスクの買い占め防止

買い占め防止においても、政府が優先的に行うことは「水際対策」でした。先述の「V字モデル」のイラストで分かるよう、マスクの転売を禁止するよりも、初期工程である販売の時点で規制をかける方が、遥かに効果が高いからです。

台湾では早くにマスクの買い占めを防止する制度を導入し、マスクの安定供給に力を入れました。

その買い占め防止の制度とは、実名制と枚数制限による販売規制です。

まず保険証を利用した身分証明がないとマスクを購入できないため、外国人による買い占めを防止することができます。

次に、生産供給力から逆算して一人当たりの購入枚数を制限しておけば、生産量が低下しない限りは、ノンストップで全国民にマスクを届けることができます。

この制度の背景には、台湾政府が国内で生産された全てのマスクを買い上げて実現した、徹底的な販売管理があります。

なぜ、このような「適切で迅速な対応」を台湾政府はできたのか。

それはSARの教訓から得た、感染症対策の体制強化によるものでした。感染症対策チームはSARS発生の翌年から結成され、来るべき時に備え、入念に準備されていました。

台湾はかつてSARS重症急性呼吸器症候群)のまん延によって悲惨な経験をした。これが、今回の新型コロナウイルスへの素早い対応につながった。台湾はSARS発生の翌年、国家衛生指揮中心(National Health Command Center, NHCC)を立ち上げ、中央流行疫情指揮中心(=中央感染症指揮センター)、生物病原災害中央災害応変中心、反生物恐怖攻撃指揮中心、中央緊急医療災難応変中心などの機能と補完することで、より全方位的な防災システムを構築した。

出典:TAIWAN TODAY

空港での徹底的な検疫はもちろんの事、過去のインフルエンザ陰性の患者データから追跡し、コロナの感染者を特定できたという事例もあります。また、過去の教訓から、新型コロナウィルスに対抗すべく、緊急条例を次々にスピード可決する、与野党の協力体制も評価されています。

新型コロナウィルス発症当初、過去の分析から、台湾は中国に次ぎ、感染者数ワースト2位になるだろうと予想されていました。中国と台湾の往来は多いからです。しかし、台湾の水際対策が功を奏し、台湾の感染者数は2月24日時点で10位に抑えられています。

政府の価値観

一方で、台湾と同じくSARSで苦しめられた韓国は、新型コロナウィルスの発生数が、中国に次ぐ第2位となっています。韓国も日本と同様、中国全土ではなく湖北省からの入国制限に留めていました。この事実を見ても、「水際対策」の力の入れ方が、被害の大きさに関係していることがよく分かります。

日本も韓国も、入国規制の対象を中国全土に指定できなかった理由は、中国との関係悪化を懸念していたからだと推測しています。しかし、中国の一部である台湾は、中国全土からの入国規制を早くに決めました。

「国交」か「人命」か、災害時のような最悪な時に、政府の価値観が問われます。

「適切で迅速な対応」ができなかった理由は、対策の誤りというよりは、何を最優先するかの価値観によるものかもしれません。この教訓を生かし、人命を優先して被害を最小限に留める今後の対応を期待したいものです。

最後までお読み頂きありがとうございました。