メルカリが福岡で割安なシェアサイクルを運営する理由
出典:https://fukuoka.mypl.net/chuo-hakata/mp/info_chuo-fukuoka/?sid=62533
こんにちは、Taikiです。
「merchari」(以下メルチャリ)というサービスをご存知でしょうか。メルカリが始めたシェアサイクルサービスです。
2018年2月頃から福岡市で試験的に開始し、利用者も増え、自転車の台数や専用ポート数も増加しています。
シェアサイクルやカーシェアをはじめとした、シェアリングエコノミーは今後も伸びていくでしょう。こちらは今後予想されるシェアリングエコノミー市場の推移になります。
出典:国内シェアリングエコノミー、2022年度に1386億円…最大はカーシェア、伸び率はシェアサイクル 矢野経済研究所が予測 | レスポンス(Response.jp)
ちなみに、以前紹介したUber Eatsもデリバリーフードのシェアリングサービスになります。
さて、メルチャリに話は戻りますが、気になるのは料金です。メルチャリは1分4円で借りることができます。自転車レンタルの相場からすると、1分4円は安いでしょう。ドコモのバイクシェアが30分以内の利用で150円になります。
メルチャリはなぜこの料金でサービスを提供しているのでしょうか。また福岡でサービスを開始した理由は何でしょうか。今回はその理由に迫ります。
あくまで個人の見解ですので、ご承知おきください。
目次はこちらになります。
メルチャリの料金設定は採算度外視?
メルチャリの料金設定がどれだけ安いかを考察するために、メルチャリの売上を試算したいと思います。前提となる条件として、1台当たりの年間利用回数、1台当たりの平均利用時間を仮設定します。
上記条件を前提とすると、メルチャリの年間推定売上はこちらになります。
2,000台 x 671回 x 12分 x 4円 = 64,416,000円 (約6千万円)
一方、同じ条件で見たドコモのバイクシェアの年間推定売上になります。
2,000台 x 671回 x 150円 = 201,300,000円(約2億円)
自転車の仕入や製造、販売活動費や人件費などは不明ですが、同じ条件で比較しても、売上金額はドコモの3分の1以下になります。
儲けが少なくてもメルチャリを運営したい理由
では、なぜメルカリはシェアサイクルを始めたのでしょうか?
シェアサイクルは、本業のフリマビジネスとは異業種です。
その点について、ソウゾウ代表の松本氏はこう語ります。
「メルカリでは買って所有する世界から、買って売る世界に変えたいと考えている。これはあらゆるものが循環して無駄がなくなるということ。メルチャリでは、自転車を買って乗る体験から、皆で利用する、使いたいときに使う形になる」
こういった企業理念は、事業を始める目的にはなりますが、勝算なくして事業を始めることはできません。メルチャリにはどういう勝算があったのか、その戦略に迫ります。
ブランド戦略
メルカリとメルチャリのロゴを比較してみてください。英字だけみると一瞬見間違えませんか?
これが、メルカリがシェアサイクルを始めた理由の1つだと思います。名前が似ているため、特に宣伝しなくても勝手に話題が広がり、利用者の関心を集めることができます。
最近マクドナルドで「ビックマックジュニア」なる商品が販売されました。なぜビックマックなのにジュニアという名前を付けたのでしょうか。既出の商品名を踏襲することで、新商品よりも低いコストで同じ宣伝効果を得ることができるからです。メルカリもこの点に着目しました。
またシェアサイクルを駐車するポートという駐車場があります。ポートは福岡市内に点在し、移動する人の目に止まります。その性格上、宣伝や広告のコストをかけずに、ターゲットを絞って周知することができます。
こちらはメルチャリのアプリで見た、ポートの所在地です。博多駅と天神駅を中心にポートがたくさん設置されています。
出典:http:// https://www.nishinippon.co.jp/nnp/f_sougou/article/404230/
料金設定の背景
ではなぜ1分4円でしょうか。シェアサイクルの強力なライバルは、地下鉄とバスだと思います。主要駅である「天神駅」と「博多駅」の料金を見てみましょう。
- 地下鉄 200円
- バス 100円
天神駅と博多駅の距離は、自転車で12分程度です。メルチャリを使うと48円ですみます。つまり公共の交通手段より半額以下で移動できます。
立地的な理由
ではなぜ福岡でしょうか。
東京や大阪、名古屋では、ドコモやソフトバンクのシェアサイクルが既に利権を得ています。残された主要都市は福岡です。福岡は立地的にも平地が多くシェアサイクルに向いています。
しかし、福岡には、ofo(オッファ)、mobike(モバイク)など、試験的な段階ですが、中国のシェアサイクル大手が参入していました。中国ではシェアサイクル文化が進んでおり海外にもビジネスを拡大していました。中国にとって、観光地の福岡は魅力的な市場です。
そして、福岡といえばソフトバンクです。ソフトバンクは中国大手のシェアサイクルと協業し、福岡や北九州の利権を間接的に得ようと考えていました。
こちらはシェアサイクル事業の構図です。
驚愕は、モバイクの料金です。30分50円!これはメルチャリの半分以下になります。
しかし、福岡市は、提案競技の結果、シェアサイクル実験事業の会社として、メルカリを選出しました。なぜでしょうか。
その理由は、安定した経営とアフターサービスの違いです。中国のシェアサイクル市場は、過当競争に陥り、価格競争が泥沼化しました。収益や品質ではなく、市場の寡占化を目指す中国ビジネスは、収益性や財務の悪化、自転車の粗悪化、運用のずさんさが目立ち、いつしか海外市場から見放されました。
その点、メルカリは、圧倒的な知名度に加えIPOも果たし、カスタマーサービスの拠点も福岡に置き、アフターサービスの強化にも余念がありません。結果、軍配はメルカリにあがりました。
今後のシナリオ
現段階では儲けが少ないと思うメルチャリですが、今後予想されるシナリオを仮説してみました。
- コストを落とし利用数を上げ、薄利多売で利益を拡大する
- 福岡のシェアリサイクル市場を寡占化した後、値上げして利益を拡大する
- 別の地域や事業に水平展開する
1は、市場シェアが拡大すると、ビジネスに係るノウハウなどの経験がたまるため、コスト面で有利に展開できるようになります。台数やポート数を増やし利用数を上げれば、利益を拡大できるかもしれません。
2は、福岡市だけを市場として考えた場合に有効な手段です。料金の低い間に、主要な場所をポートで埋めつくし参入障壁を高くした上で、値上げします。寡占状態であれば、値上げ後の料金も浸透しやすいでしょう。最近、仙台のシェアバイク「DATE BIKE」も値上げしています。
3は、競争優位をもって別の地域や事業に進出するケースです。技術が進めば、おそらく自転車の動態管理やステータス管理などを遠隔監視できるようになるでしょう。そういった技術は、他のビジネスにも応用できるかもしれません。また別の地域に進出するときにも大きな武器になるでしょう。
まとめ
シェアリングエコノミーの競争は外資系企業を巻き込み更に激化していくでしょう。常時監視下にないため、シェアリングエコノミーの難しさは、商品の品質維持にあります。先の中国企業のような品質の劣化は、顧客離れを意味します。利用者拡大とともに品質維持の効率化が求められます。
メルチャリでは、自転車の放置やパンクなどの故障を見つけた会員には、ポイントを付与するなどのサービスも始めています。品質を維持するためには、そういった仕組みづくりやテクノロジーの利用が不可欠となるでしょう。