ある農薬が世界で規制され、日本で緩和される理由

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こんにちは、Taikiです。

発がん性の疑いから、売上No.1の農薬が世界各国で規制される一方、日本では緩和されました。

安全な農薬と考えられてきたグリホサート(ネオニコチノイド系農薬)だが、2015年にWHOの専門機関(IARC 国際がん研究機関)によって発がん性物質に分類されて以降、

世界各国はグリホサートの使用削減・禁止に動いている。

そんな中で日本は何の対策もとらないばかりではなく、食品残留基準値を緩和しているのだ。

出典:msn

2017年12月に厚労省が緩和した残留基準値を一部抜粋します。緩和後の残留基準値ですが、ライ麦は150倍にもなります。

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出典:厚生労働省

では、グリホサートは本当に危険なのでしょうか。また世界が規制強化する一方で、なぜ日本は緩和したのでしょうか。今回はこの点に迫ります。

グリホサートは本当に危険か

グリホサートは有害か、各国における調査機関の調べでは、「発がん性の証拠はない」、または「因果関係は否定できない」と議論が分かれます。

では、なぜこうも騒ぎ立てるのか。

それは、この農薬を使用している地域で以下のような問題が実際に発生しているからです。

  • 北半球のミツバチの4分の1が消失した
  • 食物アレルギーや喘息、自閉症の症状が増えた
  • 農薬メーカーに対する健康被害の訴訟が相次いでいる

日本が農薬を規制緩和する理由

農薬に対する姿勢が、世界各国と日本とで異なる理由は、「価値判断の違い」ではないでしょうか。

言い換えると、不明確でも事前に対応するか、事実関係が解明された後に対応するかの違いです。

予防原則と事後対応

世界各国が農薬を規制強化する姿勢、それは「予防原則」に基づくものです。

予防原則とは、欧米を中心に取り入れられている概念で、化学物質や遺伝子組換えなどの新技術などに対して、人の健康や環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。

出典:環境用語集

予防原則とは、「農薬と健康被害」それを裏付ける明確な証拠がなかったとしても、状況から判断し、最悪な事態を回避するための予防的措置を講じる、といったところでしょうか。世界各国が農薬を禁止する根本思想になっています。

しかし、日本の思想は逆です。

因果関係が判明するまでは行動しない、それを裏付ける国会の答弁を一部抜粋します。

政府として、ネオニコチノイド系農薬の使用と蜜蜂の大量死等との因果関係が科学的に確認されているとまでは認識していない。

出典:内閣衆質一九八第二一号

つまり、日本の現内閣では、因果関係が科学的に確認されるまでは、規制強化に踏み出すことはありません。水俣病イタイイタイ病四日市ぜんそくなど四大公害を調べました。

いずれも発症から公認まで10年以上経過しています。

入念に調査し解明後に対応する、昔からの価値観は今も色濃く残っています。

米国ファースト

日本が規制を緩和した大きな理由は、おそらく日米関係です。規制緩和のタイミングと対象の農作物をみれば明らかになります。

残留基準値を緩和したタイミング

2014年7月、オバマ政権は、国立野生生物保護区での農作物栽培における使用禁止など、ネオニコチノイドの段階的な使用禁止に舵を切っていました。

しかし、米国はここから方向転換します。

2017年1月、トランプ政権の発足以後、その決定は破棄され、ネオニコチノイド農薬の規制緩和が推進されました。同年12月、日本でもグリホサート残留基準値の緩和に至ります。米国政府の方針に日本政府は追随しています。

残留基準値を緩和した農作物

残留基準値を大幅に緩和した「とうもろこし」「小麦」の主要な輸入国は、言わずもがなアメリカです。

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 出所:2018年財務省統計

当初、国内で農薬を使用する正統性は理解できていたのですが、更に基準値を緩める意図が分かりませんでした。

「食の安全」「農作物の輸出拡大」を狙うなら、むしろマイナス効果では?

しかし、調べてみると、日米関係が深く関与していました。下記のグラフから、なぜ日本が農薬基準値を緩和し米国に忖度しないといけないのか、垣間見ることができます。

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 出所:2018年財務省統計

日本の「食料品」の輸入額と「輸送用機器」の輸出額を比較してみてください。輸送用機器の額が圧倒的に大きいですね。その主要な輸出先は米国です。

そう、日本は儲けの多い自動車輸出に報復措置を取られたくありません。

なので、日本としては、農薬基準値を緩和し、滞りなく食料品や農薬を米国から輸入し、貿易摩擦を避けないといけません。規制緩和の背景には、貿易収支の事情が多分にあると見ています。

「だから、皆さん大目に見ましょう」と言って納得できる人が何人いるかは不明ですが。

もし日本が農薬を禁止したら

もしそんな日本が農薬を禁止したら、どうなると思いますか。おそらく、その経済的損失は膨大な額に上り、国内の農家も大打撃を受けるでしょう。その理由は以下にまとめてみました。

収穫量

農薬を使用しない場合の影響について抜粋します。

農薬を使用しない場合の病害虫の影響については、(社)日本植物防疫協会において1991年、1992年および2004~2006年に試験を実施しており、それによると、ある程度収穫できる作物もありましたが、

収穫が皆無になる作物もありました。

さらに、(財)日本植物調節剤研究協会では、1983~1986年に野菜における雑草の被害についての解析を行っており、収量が大幅に減少することを示しました。

出典:農薬工業会

日米関係

タイの事例を抜粋します。

米通商代表部(USTR)は25日、タイ政府による労働者保護が不十分だとして、現在特恵関税(GSP)を適用しているタイからの

輸入品の約3分の1、13億ドル相当を6カ月後から適用外

とすると発表した。GSPの適用外となるのはすべての水産食品など。タイ国内には、米政府の今回の措置が、タイ政府が米側の反対を押し切り、3種類の農薬の使用を禁止したことへの報復という見方がある。

出典:newsclip

このタイのケースでは労働者保護という建前はありますが、私はこう思います。

農薬の使用禁止が引き金になったのでは。

日本に置き換えると、自動車などの主要な輸出品に報復措置が取られることは容易に想像できます。

貿易摩擦については以前も記事にしたのでご参考まで。

www.mytaikiblog.com

生産コスト高

フランスの事例を抜粋します。

 BIO大国のフランスではありますが、BIOを掲げるには、

農薬に(できれば一度も)汚染されていない安全な土地が必要です。

かつて農薬が使われていた土地なら、転換までに何年も要し、農薬などの汚染から土を回復させるところから始めなくてはなりません。
また農薬を使っている近隣の農地から、土壌を伝って影響を受けることも考えられます。

さらに有機農法は栽培に手間がかかります。

一度BIOと認証された農作物や商品でも、定期検査でわずかでも基準をクリアできないとそのラベルを剥奪されてしまう上、再びBIOと認証されるまでには、かなりの時間がかかるのだそうです。

出典:家庭画報.com

米国の大統領選において、トランプ氏が農家から高い支持を受けた背景にも、オバマ政権下において環境規制による生産コスト増があったためです。

消費者が受ける印象

無農薬の農産物について、消費者が受ける印象を抜粋します。

化学物質を減らすと農産物は虫食いだらけ、形がいびつになり、虫の害による劣化、品質低下につながります。

つるつるに輝き、同じ形、同じ大きさの農産物に慣れ、虫などが付着していると受け入れがたい。

そう考えている都会の消費者は決して少なくありません。

出典:食と農をテーマに

農薬に代わる有機農法の一例

農薬を使った従来の農法は、環境の汚染、薬剤耐性を持った病原菌や害虫への果てしない対応、薬剤購入のための費用負担など沢山の課題を抱えています。田畑には、益虫と害虫が共生していますが、農薬は無差別にこれらの生物を排除します。

しかし、この生物の共生を活かした有機農法(以下、共生農法)が存在します。

例えば、お米はカメムシに食べられると、斑点米とされ、お米の価格が極端に下がります。その抑止のために農薬が使用されますが、共生農法を採用すると、下記のロジックで元凶とされる害虫のみを排除可能です。

  1. 有機農法で田畑の環境を豊かにする
  2. ユスリカなどの餌動物が増える
  3. 餌動物や害虫を捕食する益虫(アオガエルやクモなど)が増える
  4. 益虫が害虫(カメムシなど)を食べる
  5. 害虫被害がなくなる

この農法を推進する民間稲作研究所の指導により、千葉県いずみ市では学校給食に無農薬米を採用しました。またブータン王国では国家プロジェクトとして農薬を使わない米作りをするために、3年間にわたり同研究所でこの農法を教えてもらったそうです。

同研究所の有機農法が紹介されたサイトを掲載します。

inasaku.org

まとめ

農薬について調べると、必ず環境と経済のトレードオフ問題にぶつかります。毎度思う事は、経済主義者は環境対策を曖昧にし、環境主義者は経済損失を軽視するため、あまり議論が噛み合いません。

しかし、大原則は、利益は私的財 自然環境は公共財です。

利潤追求は民間主導でも良いですが、環境保護は政府主導でないと絶対に無理です。長い歴史がそれを物語っています。自然環境は有限です。もしその農薬が有害だとしたら、手遅れになる前に政府の対策が急務になるでしょう。

最後にサン・テグジュペリの言葉を紹介します。お読み頂きありがとうございました。

「地球は先祖から受け継いでいるのではない、子どもたちから借りたものだ。」